「TSMCに追い付くには10年」、SMICの今:米中摩擦でチャンスをつかむ?(3/3 ページ)
SMICは、14nmチップの生産を開始し、FinFETを製造できる半導体メーカー/ファウンドリーの“仲間入り”を果たした。同社は間もなく、事業への投資を継続するため、70億米ドル超を得られる株式公開を行う予定である。だが、トランプ政権によって、SMICは最新の製造機器の一部を利用できなくなっている。そうした状況の中、同社はSoC(System on Chip)のトップメーカーが求めるような最先端のプロセス技術を長期的に提供し続けられるのだろうか?
HiSiliconがSMICの14nmを採用
新しいプロセス技術の導入に関しては、SMICの進歩は目覚ましいものがある。2001年には、SMICのFab 1で0.25μmの製造技術を提供したが、2002年には既に0.18μmのロジック用プロセスの量産を開始している。2008年第1四半期には、多数のノードを提供し、65nm技術を発表した。最終的に、SMICは2012年後半に40nmチップの製造を開始し、2015年には28nm製品ラインを立ち上げ、2019年後半には初のFinFETベースの14nmプロセス技術を使った生産を開始することになる。一方で、SMICは“不動のトップ”であるTSMCに比べると常に約4年分の後れを取っている。
プロセス技術の開発には多くの資金と技術が必要だ。開発のスピードアップとリスクの最小化を図るため、SMICでは早い時期から元TSMCの技術者を数百人規模で採用していたが、そうした技術者を通してTSMCのプロセス技術やプロセスフロー、レシピなどを提供してもらっていたようだ。
また、Chartered Semiconductor Manufacturing(180nm)、IBM(40/45nm、32nm、28nm)とプロセスライセンス契約を締結している。他社から製造プロセスや関連技術を取得することで、SMICは必要なIP(Intellectual Property)を獲得し、「成熟したプロセスを適用したチップの“第2の供給源”を求めてはいるものの、大幅な再設計は望まない顧客」を獲得することができた。
こうした取り組みにより、SMICはファウンドリー事業で目覚ましい成長を遂げ、2005年にはTSMC、UMC、Charteredに次ぐ世界第4位の専業ファウンドリーとなった。
SMICは、最先端のプロセス技術では常にTSMCの後塵を拝してきたが、競争力のある価格設定、差別化、包括的なサプライチェーンを提供することができ、Huawei傘下のHiSilicon、Qualcomm、Fingerprint Cardsなどの最大手を含む顧客にとっては十分なものであった。
2020年第1四半期のSMICの売上高では、成熟したプロセス技術(250/350nm〜40/45nm)が、92%を占めたが、28nmと14nmがそれぞれ6.5%、1.3%となっている。
HiSiliconは、SMICの14nmを採用した最初の企業の一つである。HiSiliconは同プロセスで、エントリーレベルのスマートフォン向け(そして恐らくは車載も視野に入れている)のSoC「Kirin 710A」を製造したが、これはもともと、2018年にTSMCの12nmで製造を開始したチップである。
SMICの28nmおよび14nmの遅い立ち上げと、旧世代のプロセスが売上高の9割以上を占めていることは、必ずしも最先端プロセスを必要としないチップも多数あることを示唆している。例えば、通信、民生用機器、自動車、産業用アプリケーション向けのICの多くは、かなり長いライフサイクルを持っている。さらに、多くの中国のチップメーカーは、実績のあるノードを求めて設計する傾向がある。これらの要因が、2020年第1四半期におけるSMICの工場稼働率98.5%という数字を説明している。一方、SMICの14nm FinFETプロセスは、同社独自のものであり、“第2の製造委託先”として活用してもらうことは難しいことから、同プロセスが軌道に乗るまでにはしばらく時間がかかりそうだ。
SMICがTSMCに追い付くには、少なく見積もっても10年はかかるだろう。だが、米中貿易戦争の激化とエレクトロニクス業界のメガトレンドは、SMICに多大なるチャンスも、もたらすことになりそうだ。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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