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1量子ビットを制御してみよう踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(4)量子コンピュータ(4)(8/8 ページ)

本当に難しい話になってきました……。が、めげずに続けます。今回のテーマは「1量子ビットを制御する」です。それに関連して、量子シミュレーションやレーザー冷却方式にも触れたいと思います。

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疲れますよね、江端さん……

後輩:「今回のレビューですが、昨夜と本日の2回読みましたが、1回目の感想は「この連載、やめたらいいのに」、2回目の感想は「もう、レビュー疲れた」でした」

江端:「……おい」

後輩:「いや、江端さん、私の話を聞いて下さい。私も技術者の端くれとして、江端さんの記事を技術的に理解しようと試みていていますが、もう、この内容、「量子コンピュータの研究開発をしている人間」か、「量子コンピュータが理由もなく大好き」という以外の人間にとって、到底、理解できる内容じゃないですよ

江端:「……」

後輩:「江端さんだって、かなり無理しているでしょう?」

江端:「……正直、人生を通して(受験時代も含めて)、こんなに激しく、かつ、長時間勉強したことは、なかったかもしれんなぁ」

後輩:「しかも、江端さん。この連載で、量子コンピュータの論理面(数学)と、ハードウェアと、それに加えて、制御や運用イメージを、なんとか同時に説明しようと試みていて ―― 正直、読んでいて、痛々しいです」

江端:「……」

後輩:「江端さんは、できるだけ多くの人に、量子コンピュータの内容を理解してもらおうと、普通の量子コンピュータの論文より、はるかに面倒く……もとい、困難な挑戦をやっていることは分かっていますが ―― その挑戦が報われる気がしない

江端:「……」

後輩:「それでも、例えば、『あと2〜3年で量子コンピュータが、世界中のコンピュータに取って代わる』という見込みでもあるなら、この連載にも気合いが入るかもしれませんが、これ、素人(しろうと)の私が見ても、これ、最短でも、あと20〜30年は必要ですよね」

江端:「……あるいは、もっと必要かも……」

後輩:「江端さんのこの作品は、賞賛します。スタンディングオベーションものだと思いますよ。ただ、私が分からないのは、江端さんは、この作品を『だれ』に対して『何』を伝えて、どんな『行動変容』をさせたいか? それが分からないのですよ」

江端:「いや、目的は、”Behind the Buzzword(バズワードの裏側にあるもの)”であり、バズワードを使って踊らせる者と、踊る者に対する批判だけど……」

後輩:どうして、その趣旨の連載で、こんなガチな内容になるんですか!

江端:「どうして、と言われてもなぁ。まあ、『バズワードを批判する以上、バズワードを使わない技術説明をしなければならない』という単純な理由しかないけど」

後輩:「……まあ、いいです。今日は、江端さんのフラストレーションを解消する為に、聞き手に回りますよ。この機会に、さあ、言いたいこと、言ってください」

江端:「そうだなぁ、そういうことなら……まず、研究機関や企業が発表するニュースリリースだな。実現したことの内容が分からん。基本的には定量値(数値)の記載がない。従来比10倍だの100倍だのは、どーでもいいから、例えば、コヒーレンス時間が”ウリ”なら、その数値をきっちりスペックアウトしやがれ。方式の性能比較ができなくて本当に困っている。

 それと、バラ色の未来の話がやたら多くて困る。バラ色の未来を記載するなら、その根拠も併記しろ。量子コンピュータのニュースリリースの「未来予想図」は、フラワーパークも真っ青のお花畑状態で、正直、睥睨(へいげい)としている ―― まあ、この分野、いかに、政府や企業のトップを口説いて、予算を取らければならないことは、よく分かっているが、もう少し節度のある表現にしてくれ。

 それとだなぁ、専門用語の注釈を、専門用語で記載するな。『分からん奴は、読むな』という態度が見えて、非常に不愉快だぞ。まあ、”0猫”、”1猫”は無理だとしても、真面目なエンジニアの魂に届く程度の表現を考えろ。

 あ、それと……」

後輩:「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、江端さん。もういいです。いろいろと溜っているようですね。よく分かりました……ところで、江端さん」

江端:「ん?」

後輩:「江端さんも、昔、ニュースリリースの原稿、書いていましたよね。いま、ざーっと目を通しているんですけど……何か、こう、私には『お前が言うな』というせりふが浮かんでくるのですが……何か、付け加えること、あります?」


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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