京都大ら、集積可能な「量子もつれ」光源を実現:直径約1.2mmのリング共振器を採用
京都大学は、集積化が可能な「量子もつれ」光源を実現した。光源をチップ化することで小型化が可能となり、量子コンピュータや量子暗号、量子センシングなどへの応用が期待される。
量子コンピュータや量子暗号などへの応用を期待
京都大学は2020年6月、集積化が可能な「量子もつれ」光源を実現したと発表した。光源をチップ化することで小型化が可能となり、量子コンピュータや量子暗号、量子センシングなどへの応用が期待される。
今回の研究は、京都大学大学院工学研究科の竹内繁樹教授や岡本亮同准教授、杉浦健太同博士課程学生、殷政浩同修士課程学生(当時)らの研究グループと、香港城市大学、南京大学、中国科学院らが共同で行った。
電子や光子といった量子は、個々の振る舞いや相関(量子もつれ)を制御することで、演算能力を飛躍的に向上したり、盗聴が不可能な暗号を実現したり、限界を超えた計測を可能にしたりできる。その中でも注目されているのが、光のさまざまな波長(色)の対となった「量子もつれ」光源である。ところが、現在の発生方法では特殊な石(非線形光学結晶)を用いる必要があり、小型化や集積化(チップ化)が難しいといわれてきた。
研究グループは今回、高屈折率のコントラストガラスで光導波路を作成。これを用いたリング共振器を、光子発生用の素子として活用した。リング共振器の直径は約1.2mmで、一般的なシリコン半導体素子と同じプロセス技術や製造装置を用いて作製できるのも特長の1つだ。
実験では、波長1550nmの励起用レーザー光(ポンプ光)をリング共振器に入力した。ポンプ光は非線形光学効果によって、「シグナル光子」と「アイドラー光子」に変換される。これを超伝導光子検出器でそれぞれ検出し、同時に発生した光子対を記録した。
今回は、シグナル光子とアイドラー光子の対として、最大23.6nmの帯域、59の共振モードにわたり発生させることに成功した。これまでの最大値である16nmの帯域、40の共振モードを大きく上回る結果となった。
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