「4つの強みで車載と産業市場に注力」、日本TI:社長就任1年のSamuel Vicari氏(2/2 ページ)
Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(以下、日本TI)は2020年8月5日、記者説明会をオンラインで開催し、同社の事業戦略などを紹介した。登壇したのは、日本TI社長兼営業・技術本部長のSamuel Vicari氏。ちょうど1年前となる2019年8月1日に、現在のポジションに就任した。
300mm工場の拡張に投資
Vicari氏は、「世界中に工場を保有していることも、TIの優位性の一つだ」と述べる。本拠地のある米国テキサス州の他、欧州、中国、東南アジア、日本などに拠点がある。日本には、製造/開発としては、200mmウエハーの美浦工場(茨城県稲敷郡)と会津工場(福島県会津若松市)、半導体パッケージの開発を行う日出パッケージング・センター(大分県日出町)の3拠点があり、この他全国に7つの営業拠点がある。なお、美浦工場と会津工場の生産量については「公表できない」(Vicari氏)とした。
テキサス州ダラスには、150mm、200mmの他、300mm工場も「DMOS6」「RFAB」の2つを保有していて、現在RFABで生産能力を増強している。2022年には拡張工事が完了する予定だ。
「独自の拠点を持つことで、製造を自社でコントロールすることができ、安定した品質、量を供給できる。社外に委託すると、そういったコントロールをしにくくなり、コスト面でも不利が生じる。また、グローバルに自社工場を持っているとBCP(事業継続計画)が立てやすく、災害や地政学的な懸念など、自分たちではコントロールが及ばないリスクにも対応できる。実際、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する中でも柔軟に対応でき、当社の顧客は生産ラインを止めることなく事業を継続できている」(Vicari氏)
直販へのシフト
Vicari氏は、「われわれはサポートも重視している」と強調する。日本だけで販売拠点を7カ所に置いているのも、「なるべく顧客に近い場所に拠点を置き、ニーズがあれば即座にローカルで対応できるようにしているからだ」(Vicari氏)という。Webサイトを通じたオンラインサポートも24時間/7日間、行っている。
TIは2019年、丸文、Avnet、WPGとの特約店契約を2020年内に終了すると発表した。ディストリビューターの活用を含め、営業体制について質問された際、Vicari氏は「TIは、顧客と、より直接的な取引をする方にシフトしている。だからこそ、営業部隊を強化し、サイトにも投資をしている。こうした取り組みは、顧客がTIに何を求めているのかを、より的確に、より早い段階で理解できるというメリットがある。ディストリビューターも一部で活用を続けていく。ディストリビューターには、ロジスティクスの面でサポートをお願いする」と回答した。
売上高の10%をR&Dに投資
TIは、全体の売上高の約10%をR&Dに投資している。TIの2019年の売上高は143億8000万米ドル。つまり約14億米ドルをR&Dに投じ、アナログICのプロセスやパッケージング技術の開発に注力している。ダラスには、高度な研究開発を行う目的で2008年に設立された研究所「Kilby Labs(キルビー・ラボ)」があり、同施設や、世界中の研究機関、大学とも共同研究を行っている。
Analog Devices(ADI)によるMaxim Integrated Productsの買収が発表されるなど、大きな動きもあるアナログ半導体市場だが、Vicari氏は「今回説明したTIの優位性を強化し、ビジネスを推進していく。他社の買収などによる影響はない」と述べた。
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