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コラム

スタートアップがひしめくAIチップ市場の現状合理化が始まるのか?(2/2 ページ)

AI(人工知能)チップ市場は現在、“深層学習が全て”という状態にある。深層学習は、実世界の中でAIアプリケーションを役立てるという機械学習の枠組みの中で、最も成功している分野である。

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スタートアップは厳しい競争を強いられる市場に

 新興企業にとっては、どの市場分野に参入しても、非常に厳しい競争が繰り広げられることになる。市場の位置付けについては、上の図のようにピラミッド型で示すと分かりやすい。三角形の各頂点は、一連の独自基準に基づいた、特徴的な市場需要を示している。

 また一番上の頂点(Performance)は、データセンターやクラウド、HPC(High Performance Computing)環境におけるAIチップ需要を示す。Cerebras Systemsは、このような市場にうまく対応できているようだ。同社は、超大型半導体チップ「ウエハースケールエンジン(WSE)」を開発している。この市場分野に求められるのは最大計算性能であり、電力使用量やコストは二の次だ。だが、既存のハイパースケーラーと競争しなければならないという点が課題となるだろう。そうした1社がNVIDIAだ。NVIDIAはこれまで、アーキテクチャの性能向上を定期的かつ確実に実現しており、直近では2020年5月に、次世代アーキテクチャ「Ampere(アンペア)」を用いたハイエンドGPU「NVIDIA A100」を発表したところだ。


21.5cm角の「WSE」を掲げる、Cerebras Systems プロダクトマネジメントディレクターのAndy Hock氏(2019年12月の取材でEE Times Japanが撮影)

 ピラミッドの底辺部分に位置する2つの頂点は、主に推論のみが行われる分野で、ある程度の正確さを維持しつつ、より低い精度でチップを構築することが可能だ。現在では、チップサイズ、低レイテンシ、低消費電力、単位当たりのコストの低さなど、制約条件が異なっている。特に「Small Edge」は、多くのスタートアップが最も活発に活動している分野だ。ここはNVIDIAのようなプレイヤーは少なく、実際NVIDIAも同市場に参入する計画はないと述べている。ただ、この分野のプレイヤーは、ライバル企業との戦いだけでなく、自分たちで会社を設立するかあるいは、スタートアップを買収するかを検討する可能性がある潜在的な顧客とも戦う必要がある。

 AIチップ市場で勝ち残るには、上記で述べた要素に加え、成熟したソフトウェア開発スタックと、幅広いアプリケーションに対応するためのビジョンが必要だ。今後、AIチップ市場の合理化が行われていくだろう。既に“犠牲者”は出ている。2020年4月にChapter 11を申請したWave Computingがその一例だ。

 市場競争によって、より高速で高性能なAIチップが市場に出回るようになっている。AI研究者はこの恩恵を受けて、斬新な設計を実行できるようになるだろうし、現在の深層学習市場における勢力図を一変するようなアルゴリズムも登場する可能性がある。

 実世界のユースケースにおける深層学習のアプリケーションは幅広く、AIチップ市場規模は数十億米ドルともいわれる。さらに、AIアクセラレーターが必要だとされる5G(第5世代移動通信)の展開に伴って成長することも予想されている。ただ、AIチップ市場で誰が覇権を握ることになるのか、そして次世代のAIアルゴリズムによって市場の勢力図が変わる時期がいつなのか、それらは誰にも分からない。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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