量子もつれ 〜アインシュタインも「不気味」と言い放った怪現象:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(5)量子コンピュータ(5)(9/9 ページ)
今回は、私を発狂寸前にまで追い込んだ、驚愕動転の量子現象「量子もつれ」についてお話したいと思います。かのアインシュタインも「不気味」だと言い放ったという、この量子もつれ。正直言って「気持ち悪い」です。後半は、2ビット量子ゲートの作り方と、CNOTゲートを取り上げ、HゲートとCNOTゲートによる量子もつれの作り方を説明します。
「江端さん、何やってんですか?」
後輩:「今回の感想を一言で言えば、『江端さん、何やってんですか?』ですかね」
江端:「……話を聞こうか」
後輩:「私、中学生の頃、NHKスペシャルで『量子もつれ』の話を知って、江端さんと同じように驚愕したのを覚えています。ですが、その歴史的背景やら、数学的な論証手段の話・・・えっと『ベルの不等式』でしたっけ? そういうことは、知らなかったので、今回のコラムは大変有り難かったです」
江端:「で?」
後輩:「この連載のテーマ『量子コンピュータ』でしょ? いや、もっと正確に言えば『バズワード批判』ですよね。江端さん、量子物理学の講義なんぞをやってどうするんですか?」
江端:「ああ、それね。実は、今回、本当に普通に簡単に、2量子ビットと2量子ゲートを記載する予定だったんだよ。で、ちょっと『量子もつれ』を調べたら、まず内容が分からんし、分かれば分かったで気持ち悪いし ――」
後輩:「……」
江端:「量子力学のビックネーム(アインシュタイン v.s. ボーア)のバトルと、その後の各種の実験で、そのバトルの帰趨(きすう)が明るみに出ていく歴史なんか、もう、これはNHKで”大河ドラマ”にしてもいいくらいだと思った」
後輩:「で、”量子沼”に”ズブズブ”、ですか」
江端:「まあ、そんなところかな」
後輩:「私、今回の江端さんのコラムを読んで思ったのですが、量子コンピュータの次世代を担う”NewType”は、『量子もつれ? うん、理解しているよ。それが何?』と答える人間になると思うんですよ」
江端:「ああ、なんとなくそれ分かる。『うん、リンゴは地面に落ちるよ。それが何?』という感じで、”量子もつれ”、あるいは、量子論と相対論の双方を、混乱なく、常識として取り込んでいる”NewType”の誕生だな」
後輩:「さらに言うとですね、これから、学校で最初に教えられる理科とか物理は、”量子物理学/量子化学(量子科学)”になるかもしれません」
江端:「それは―― なるほど。確かに、現状の科学教育は、『あさがおの観察』から『リトマス試験紙の色の変化』に至るまで、”観測”を避けて通れないが ――」
後輩:「量子科学は、古典科学の全範囲を網羅していますからね。それに、今回の江端さんのように、”観測”に基づく古典科学が、量子科学の理解を妨害しているとしたら、それこそ”NewType”の誕生を妨げていることになり、本末転倒な話です」
江端:「まあ、一足飛びに、そこまで至るかは分からないけど、私としては、頭のイカれた教祖と、それを信奉する無知性な信者からなるカルトな宗教団体の、「量子論へのただ乗り」のページや書籍が減るなら、それだけでも十分にうれしいと思う」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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