Spin Memory、MRAM製造でArmやAppliedと協業へ:米新興企業
米国カリフォルニア州フリーモントに拠点を置く新興企業Spin Memoryは、ArmとApplied Materialsとの協業により、MRAM(磁気抵抗メモリ)を製造すると発表した。軍事、自動車、医療用機器などの幅広い分野への普及を実現できると期待されている。
米国カリフォルニア州フリーモントに拠点を置く新興企業Spin Memoryは、ArmとApplied Materialsとの協業により、MRAM(磁気抵抗メモリ)を製造すると発表した。軍事、自動車、医療用機器などの幅広い分野への普及を実現できると期待されている。
Spin MemoryのCEO(最高経営責任者)であるTom Sparkman氏によると、創業8年となるSpin Memoryは最近、シリーズDの投資ラウンドにおいて、ArmやApplied Materialsをはじめとする既存の経済的/戦略的パートナーから資金を調達したところだという。同氏は、「Spin Memoryは、世界で唯一ともいえる専業のMRAM工場を米国に保有している。近いうちに米国政府から、貿易摩擦に関連する助成金を得られる見込みだ」と述べる。
Sparkman氏は、EE Timesのインタビューで、「第2世代のMRAMを製造できる米国のMRAMメーカーは、当社だけだ。ごく少量の生産も可能なため、少なくとも軍事向けには十分対応することができる」と述べている。
Samsung ElectronicsやTSMC、GLOBALFOUNDRIES、UMCなどのファウンドリーは、プレーナ型MRAMを製造することができるが、Spin Memoryは、Sparkman氏が“第2世代”と呼ぶ垂直構造のメモリを開発している。プレーナ型MRAMと比べて密度を約5倍に高められるという。
同社が保有する約270件の特許ポートフォリオの中には、1つのMRAMダイ上に不揮発性メモリ(NVM)とSRAMを一緒に配置することが可能な、自社開発IP(Intellectual Property)なども含まれている。
Sparkman氏は、「MRAMは、非常に柔軟性に優れた技術であるため、NVMとしてもSRAMとしても機能する。データ保持特性を高めながら速度を抑えたり、データ保持特性を抑えながら10ナノ秒のスイッチングを実現するといったことも可能だ。また当社の特許の中には、この両方のパターンをMRAMの1つのダイ上で実現できるものもある」と述べる。
この他にも、Spin Memoryが「耐久エンジン」と呼ぶ特許技術は、MRAMの寿命を延長させると同時に、書き込みエラーを修正する機能も備えているという。
この他にも、Spin Memoryが保有する技術としては、MRAMの根幹を成す、磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunneling Junction)の磁性とデータ保持特性を高めることが可能な、「PSC(Processional Spin Current)」が挙げられる。同社によると、MTJに独自技術を追加することにより、データ保持時間を約1000倍に延長することが可能になったという。
Sparkman氏は、「通常であれば1週間のデータ保持時間を、当社のPSC技術を採用することによって1年以上に延長することが可能になる」と述べる。「このような技術進歩により、SRAMやフラッシュメモリに匹敵する競争力を備えたMRAMを実現することができる」(同氏)
同氏によると、Spin Memoryが現在稼働させている工場は、1週間当たりのウエハー処理枚数が約25枚と小規模だが、米国軍からの需要には対応可能だという。
また同氏は、「ウエハーサービスの提供だけでなく、試作や研究開発にも対応できる。当社は政府に対し、生産能力をいずれ拡大していくことを既に示している。政府にとって必要な1週間当たりのウエハー処理枚数は、100〜200枚ではないだろうかと提案しているところだ」と続けた。
Sparkman氏は、「最終的には、1カ月当たり1000枚のウエハー処理を実現することによって、米国軍の需要にも十二分に対応できるようになると考えている。MRAMは、電荷をベースとしていないメモリであり、耐放射線性を備えていることから、将来的に膨大な需要が見込まれる」と述べた。
Spin Memoryは長期的に、製造とIPライセンスの供与を手掛けていく予定だという。
同社は主に、ライセンス供与によって資金を調達している。Sparkman氏は、ゆくゆくはSpin Memoryをファブレス半導体メーカーにしたい考えだという。
「最終的に、当社の軍事向け部門を買収したい企業が現れた場合は、その工場を独立企業としてスピンアウトするか、または同業者に売却することになるだろう。そうすれば当社は、MRAMを搭載した独自製品の開発だけを手掛けるファブレスメーカーになる」(Sparkman氏)
同氏は、「MRAMを製造するファウンドリーは現在、MTJ技術の最適な実装方法を模索しているところだ。当社はArmとの協業により、これらのファウンドリーの既存技術に、われわれの技術を追加する取り組みを進めている。当社は、欠陥のない強固なMRAMを実現することができた。さらに、自動車向けの認証を受けることで、求められる堅牢性を実現できるようになる」と述べる。
またSpin Memoryは、Applied Materialsとも協業して、MRAM技術をまだ採用していないファウンドリー向けに提供していくという。MRAMプロセスを販売することにより、エンジニアが製造できるようにしていきたい考えだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- MRAMのメモリセルと読み書きの原理
今回は、MRAMのメモリセルの構造と、データの読み出しと書き込みの原理をご説明する。 - 磁気抵抗メモリ(MRAM)の長所と短所
今回から磁気抵抗メモリ(MRAM)について解説する。まずはMRAMの構造と、長所、短所をそれぞれ説明しよう。 - 東北大学、Quad-MTJで高速動作などを確認
東北大学は、新たな4重界面磁気トンネル接合素子(Quad-MTJ)とその製造技術を開発し、STT-MRAM(スピン注入型磁気抵抗メモリ)に求められる「高速動作」の実証と「データ書き換え信頼性」について確認した。同時に車載用途で必要となる「データ保持特性」も実現した。 - 「世界初」SOT-MRAMチップの動作実証に成功、東北大
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(以下、CIES)と同大電気通信研究所は2020年6月15日、スピン軌道トルク型磁気トンネル接合(SOT-MTJ)素子を用いた不揮発性メモリ(SOT-MRAM)チップを試作し、その動作実証に世界で初めて成功した、と発表した。 - 3D NANDの最新動向、覇権争いの鍵となる技術は? バーチャル開催の「IMW2020」から
半導体メモリの国際学会「インターナショナル・メモリ・ワークショップ(IMW)2020」が5月17日〜20日の4日間、バーチャル方式で開催された。本稿では、チュートリアルの資料を基に、NAND型フラッシュメモリメーカー各社の現状とロードマップを紹介する。