東京大ら、ミリ波などを用いた磁気記録方式を実証:磁気テープの記録容量を著しく向上
東京大学らによる共同研究グループは、ミリ波やテラヘルツ波を用いた新しい磁気記録方式として、「集光型ミリ波アシスト磁気記録」の原理検証に成功した。極めて高い磁気記録密度を実現することが可能となる。
「磁気記録トリレンマ」と呼ばれる問題も解決
東京大学らによる共同研究グループは2020年10月、ミリ波やテラヘルツ波を用いた新しい磁気記録方式として、「集光型ミリ波アシスト磁気記録」の原理検証に成功したと発表した。極めて高い磁気記録密度を実現することが可能となる。
今回の研究は、東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授や大阪大学レーザー科学研究所の中嶋誠准教授、富士フイルム記録メディア研究所の白田雅史研究マネジャー、堂下廣昭所長らの共同研究グループが、筑波大学数理物質系の所裕子教授や東京大学の宮下精二名誉教授、日立ハイテクの山岡武博氏らの協力を得て行った。
IoT(モノのインターネット)時代を迎え、情報量は指数関数的に増える。こうした中で、高い記録密度の実現する新たな磁気記録方式の開発が求められている。そこで大越氏らは、ミリ波磁気記録の確立を目指し「集光型ミリ波アシスト磁気記録(F-MIMR)方式」を提案した。今回の研究では、将来的な磁気テープ用磁性粉の候補材料であり、Beyond 5G時代の高周波ミリ波吸収特性を備えたイプシロン酸化鉄(ε-Fe2O3)および、その金属置換体に注目した。
実験では、ガラス基板上に、ガリウム−チタン−コバルト置換型イプシロン酸化鉄(GTC型ε酸化鉄:ε-Ga0.23(TiCo)0.05Fe1.67O3)ナノ粒子を塗布した磁性フィルムを用いた。また、テラヘルツ波を光源とする高強度ミリ波発生装置を開発した。
上段左はGTC型ε酸化鉄(ε-Gax(TiCo)yFe2-x-2yO3)の結晶構造。上段右はテラヘルツ時間領域分光測定から得られたミリ波吸収スペクトル。中段はε酸化鉄分散液およびε酸化鉄フィルムの調製プロセス。下段左はフィルムの3D形状AFM画像。下段右はフィルムに対し外部磁場を面外方向に印加した場合の磁気ヒステリシスループで、図中のデータはx=0.23、y=0.04の組成の試料データ (クリックで拡大) 出典:東京大学他
さらに、電磁界解析シミュレーションにより設計した金属製のミリ波集光リングを、磁性フィルム表面に作製した。これは、GTC型ε酸化鉄の共鳴周波数に相当するミリ波を集めるためである。そして、フィルムの磁化方向をフィルム面外の+z方向にそろえ、−z方向に保磁力(4.9kOe)よりもわずかに小さい外部磁場(3.4kOe)を印加した状態で、集光ミリ波を照射した。
集光ミリ波を照射した後に、試料を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。そうしたところ、金属リングの高さ形状が観測された。磁気力顕微鏡(MFM)では、集光リングの周辺に暗いコントラスト部分を観察することができた。観測されたMFM画像と電磁界シミュレーションによる磁場分布はほぼ一致しており、高強度ミリ波磁場により磁化反転したことが明らかとなった。
さらに、シリコンウエハー上にミリ波集光リングを作製し、磁性フィルムと重ね合わせた状態で、テラヘルツ波を照射した。この場合も、磁性フィルム上のリング周辺で最もミリ波集光度が高い部分に磁化反転が見られたという。
今回の検証結果から、ミリ波磁気記録技術を活用すれば、「磁気記録トリレンマ」と呼ばれる従来の問題も解決でき、磁性粒子のサイズを小さくして、記録容量を増加できることが分かった。しかも、ミリ波の遷移エネルギーは可視光に比べ極めて小さく、磁気テープでもミリ波を用いた磁気記録が、極めて有効な記録方式になることを示した。
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