室温近傍でも高い性能を持つSiGe熱電材料を開発:熱電変換出力が約3倍に増大
大阪大学と高知工科大学、東邦大学および、九州シンクロトロン光研究センターの研究グループは、シリコンゲルマニウム(SiGe)熱電材料で、室温近傍において従来の約3倍となる熱電変換出力因子を得ることに成功した。
新たなグリーンエネルギー源として期待
大阪大学大学院基礎工学研究科の中村芳明教授、高知工科大学環境理工学群の藤田武志教授、東邦大学理学部の大江純一郎教授、九州シンクロトロン光研究センターの小林英一主任研究員らによる研究グループは2021年1月、シリコンゲルマニウム(SiGe)熱電材料で、室温近傍において従来の約3倍となる熱電変換出力因子(ゼーベック係数2×電気伝導率)を得ることに成功したと発表した。
熱を電気に直接変換できる熱電材料は、身の回りに存在する廃熱を再利用できるため、グリーンエネルギー源として注目されている。本格普及に向けては、高い効率で熱電変換を実現するために、ゼーベック係数(単位温度差当たりに発生する起電力)と電気伝導率を同時に高める必要がある。ところが、これらの物性値は互いに相関があり、両立させることがこれまで難しかったという。
今回の研究では、ゼーベック係数と電気伝導率を同時に高める方法を新たに提案し、これを実証した。その方法とは、中村教授らの研究グループが確立した、温度分布を制御することで母体熱電材料のゼーベック係数を保ちながら電気伝導率を増大する「サーマルマネジメント法」と、不純物を添加して共鳴準位を形成し、ゼーベック係数を増大させる手法の融合である。
実証に向けて研究グループは、急冷法を用いてSiGeと金(Au)のコンポジット材料を作製した。このコンポジット材料は、Auが添加されたSiGe領域(領域A)とAu結晶領域(領域B)という2領域で構成されている。この試料は、温度差を与えると熱伝導率が低い「領域A」に温度差が生じ、全体として高いゼーベック係数が得られる。従来のSiGeと比べ、高いゼーベック係数と高い電気伝導率が、同時に実現できることを確認した。試料の熱電変換出力因子は、宇宙船に搭載されているRTG(Radioisotope thermoelectric generator)用のSiGe材料と比べ、室温近傍で約3倍も高い値を示すことが分かった。
SiGe材料はこれまで、宇宙船の電源など高温環境における熱電変換に利用されてきた。今回の成果により、SiGe材料を用いて室温近傍における廃熱も有効利用できることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- NIMS、複合構造による横型熱電効果を考案
物質・材料研究機構(NIMS)は、縦方向の電子の流れを横方向の起電力に変換させる、新原理の横型熱電効果を考案した。試作した素子では+82μV/Kと−41μV/Kの熱電能値を観測した。 - テトラへドライトのラットリングを加圧で制御
広島大学と九州大学、筑波大学の研究グループは、新たな熱電変換材料として注目を集める硫化銅鉱物「テトラへドライト」において、大振幅原子振動(ラットリング)を圧力で制御することに成功した。 - NIMSら、「磁気トムソン効果」の直接観測に成功
物質・材料研究機構(NIMS)は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、「磁気トムソン効果」を直接観測することに成功した。 - 自然冷却で実用できる有機熱電モジュールを展示、世界初
産業技術総合研究所(産総研)は「第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(2020年1月29〜31日/東京ビッグサイト)で、「世界で初めて開発した」(同所)とする自然冷却で実用可能な有機熱電モジュールを展示した。 - 東京大学ら、トポロジカル状態変化の現象を発見
東京大学は2020年5月、広島大学や大阪大学らのグループと共同で、電荷密度波を形成する「VTe2」の電子構造を解明し、トポロジカルな性質が変化する現象を発見した。 - 大阪大学ら、CNTの複雑な準粒子の挙動を解明
大阪大学や米国ライス大学らによる国際共同研究チームは、テラヘルツ(THz)波放射を用い、半導体カーボンナノチューブ(CNT)における複雑な準粒子の挙動を解明した。