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NIMS、複合構造による横型熱電効果を考案100μV/K超の熱電能を生成可能

物質・材料研究機構(NIMS)は、縦方向の電子の流れを横方向の起電力に変換させる、新原理の横型熱電効果を考案した。試作した素子では+82μV/Kと−41μV/Kの熱電能値を観測した。

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磁性材料Co2MnGaとSiを組み合わせ

 物質・材料研究機構(NIMS)は2021年1月、縦方向の電子の流れを横方向の起電力に変換させる新原理の横型熱電効果を考案したと発表した。理論モデルで予測したところ、温度勾配と直交する方向に100μV/Kを超える巨大な熱電能を生成できることが分かった。試作した素子では+82μV/Kと−41μV/Kの熱電能値を観測した。

 膨大なデータを効率的に活用するスマート社会の実現に向け、無数のセンサーがつながるネットワーク構築などが注目されている。これらセンサーを駆動させるための自立電源として期待されているのが、廃熱や太陽光、振動などを活用する環境発電技術である。ゼーベック効果を利用した発電素子もその1つ。金属や半導体に温度勾配が加わると、温度勾配と平行の方向に起電力を生じる、「縦型」の発電現象を示す。

 ところが、ゼーベック効果を利用した発電素子で大きな電気エネルギーを得るためには、ゼーベック係数の符号が異なる2種の材料を交互に並べて上下を直列的に接続する必要がある。しかし、そのモジュール構造は複雑となり、コストダウンが難しいなど、広く普及するにはいくつかの課題もあった。

 ここで注目されているのが、「異常ネルンスト効果」と呼ばれる熱電変換現象の活用である。与えられた温度勾配と直交する方向に起電力が発生する、「横型」の発電現象を示す。このため、熱源面に沿って磁性材料を直列接続できるなど、極めて単純な構造で出力電圧や電力を増強できる特長がある。ただ、これまでの熱電能値は室温近傍で10μV/K以下と小さかった。


上図は左がゼーベック効果、右が異常ネルンスト効果の模式図。下図は左がゼーベック効果を用いたモジュール、右が異常ネルンスト効果を用いたモジュールのイメージ 出典:NIMS

 研究チームは今回、「ゼーベック駆動横型熱電効果」を考案した。磁性材料と熱電材料を接合した複合構造を用いれば、熱電材料の大きなゼーベック効果を駆動力として、キャリアを磁性材料に流し込めば大きな横熱電効果が得られる、という発想だ。

 この原理に基づき、横熱電能値を理論モデルによって計算した。この結果、熱電材料と磁性材料の電気伝導率やサイズの比率を最適化すれば、熱電能値が100μV/Kを超える横熱電効果が得られることが分かった。研究チームはこれを実証するため、磁性材料Co2MnGaとSiを組み合わせた複合構造を作製。Co2MnGa単独での異常ネルンスト効果と、Siと複合させた場合に生じるゼーベック駆動横型熱電効果を測定し、これらを比較した。

 この結果、Co2MnGa単独の異常ネルンスト効果による熱電能値は、約+6μV/Kであった。これに対し、n型Siと組み合わせれば+82μV/Kに、p型Siと組み合わせれば−41μV/Kという、極めて大きい横型熱電能値を観測した。これらの値は理論モデルを用いた予測値とも整合しているという。


上図は左がゼーベック駆動横型熱電効果の概念図、右がゼーベック駆動横型熱電効果の理論モデルによって計算した横熱電能と熱電材料と磁性材料のサイズ比依存性。下図は左が作製した試料の構造、右が実験結果で、Co2MnGa単体の異常ネルンスト効果による熱電能値とCo2MnGa-Si複合構造におけるゼーベック駆動横型熱電効果による横熱電能値の比較 出典:NIMS

 研究チームは、新原理の実用化に向け、FePtとSiを組み合わせた構造の試料でも実証を行った。この結果、外部磁場を印加しなくても+34μV/Kの熱電能値が得られることを確認した。


FePtとSiを組み合わせた構造におけるゼーベック駆動横型熱電効果 出典:NIMS

 研究チームは今回の成果をベースに、材料開発や素子構造の最適化に取り組む。さらに、発電素子や熱流センサーなどへの応用に向けた研究を加速する。

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