東京大、高容量蓄電池を可能にする電極材料を発見:酸素の電子を利用しても損失なし
東京大学は、酸素の電子を電力貯蔵に利用してもエネルギー損失がない電極材料を発見した。蓄電池の容量を大幅に高めることが可能となる。
酸素の電子を放出した状態が安定して存在
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授、大久保將史准教授、Xiangmei Shi博士研究員、土本晃久大学院生らの研究グループは2021年1月、酸素の電子を電力貯蔵に利用してもエネルギー損失がない電極材料を発見したと発表した。蓄電池の容量を大幅に高めることが可能となる。
リチウムイオン電池に代表される蓄電池は、モバイル機器や電気自動車(EV)、家庭用など幅広い用途で需要が拡大する。カーボンニュートラルな持続社会の構築の向け、電池の電力貯蔵能力をさらに高めるための研究開発も進む。その1つが、電極材料に含まれる酸素の電子を電力貯蔵に用いる試みだ。
従来は、電極材料(遷移金属酸化物)に含まれる一部の元素(遷移金属)のみを、電子の放出・吸収源として利用しており、電力貯蔵能力の向上には限界があったという。酸素の電子を電力貯蔵に用いる場合でも、高容量化を実現できる半面、蓄積した電気エネルギーが熱として放出されるため、大きなエネルギー損失を生じるという課題があった。
研究グループが新たに発見した電極材料「Na2Mn3O7」は、酸素の電子を電力貯蔵に用いても、エネルギー損失がなく電気エネルギーを貯蔵できることが分かった。
具体的には、Na2Mn3O7が4.23V、4.55Vで充電されてNa+を脱離。同時に酸素が電子を放出して電気エネルギーを貯蔵する。放電を行うとNa+が挿入され、酸素が電子を吸収して電気エネルギーを供給する。重要なのはこの放電が4.19V、4.52Vで行われる点だという。充電と放電が0.04V、0.03Vという極めて小さい電圧差であるため、電気エネルギーの損失はほとんどなく、貯蔵・供給が可能となった。
研究グループは、電気エネルギーが失われない要因も調べた。酸素の電子状態を磁気測定した結果、酸素の電子が放出された状態(リガンドホール)が、安定に存在していることが分かった。これまでは、酸素の電子が放出されると不安定な構造となり、酸素原子同士が結合することによってエネルギーが失われていたという。
第一原理計算により電子状態を調べたところ、電子を放出した酸素の2p軌道が、Mnの3d軌道と強く相互作用し、酸素の電子が放出された状態を安定化していることが判明した。
研究グループは今後、酸素原子同士の結合を防ぐことができる電極材料の開発を急ぎ、高容量電池の早期実用化を目指す。
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