東京大ら、高感度有機半導体ひずみセンサーを開発:簡便な手法で不純物をドーピング
東京大学とパイクリスタルの共同研究グループは、大面積で高性能有機半導体単結晶ウエハーの表面上に、二次元電子系を選択的に形成することができるドーピング手法を新たに開発。この手法を用い、感度が従来の約10倍という「有機半導体ひずみセンサー」を実現した。
有機半導体単結晶薄膜をドーパント溶液に浸すだけ
東京大学大学院新領域創成科学研究科の渡邉峻一郎准教授らとパイクリスタルの共同研究グループは2020年12月、大面積で高性能有機半導体単結晶ウエハーの表面上に、二次元電子系を選択的に形成することができるドーピング手法を新たに開発したと発表した。この手法を用い、感度が従来の約10倍という「有機半導体ひずみセンサー」を実現した。
研究グループはこれまで、独自構造の有機半導体と印刷技術を組み合わせて、大面積の有機半導体分子からなる単結晶薄膜の大規模製造を可能にしてきた。移動度も10cm2/Vs以上を達成してきた。
ただ、半導体の電子状態を制御するためには、不純物のドーピングが不可欠である。ところが、分子が弱い相互作用で集合した有機半導体単結晶ではこれまで、電子を安定的に供給するドーピング手法は開発されていなかったという。
研究グループは今回、ドーパント分子が溶解した溶液に、有機半導体単結晶薄膜を浸すだけの簡便な手法により、有機半導体の表面だけに非破壊で、高密度の二次元電子系を形成させることに成功した。
開発した手法を用いて適切なドーピングを行うと、有機半導体単結晶デバイスの抵抗値を7桁以上も下げることができるという。結晶性は完璧に保持されており、単結晶性に特有の巨大ひずみ応答効果も顕在化することが分かった。この技術を活用し、パイクリスタルと共同で厚みが7μmのフレキシブル基板上に有機半導体を印刷したひずみセンサーを開発した。この試作品の感度は、従来の金属製ひずみセンサーの約10倍だという。繰り返し利用可能な耐性や安定性を備えていることも確認した。
パイクリスタルはこれまで、高い安定性と性能を持つ有機半導体単結晶の成膜技術を独自に開発。この技術をベースにフィルム状でフレキシブルかつ薄型の有機半導体デバイスを開発してきた。今回共同開発したひずみセンサーおよび、印刷技術を用いた有機半導体デバイスについても、事業化に向け量産体制を早期に確立していく計画である。
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