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光トランシーバーForm Factorの新動向(5) 〜ハイパースケールデータセンターの光インタフェース光伝送技術を知る(16) 光トランシーバー徹底解説(10)(3/3 ページ)

今回は、光インタフェースについて、ビット速度や多重波長数、光伝送路数といった観点で解説する。

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(a)ビット速度(Bit Rate)

 前述のように、データセンターやHPCなどではIM/DD方式が用いられる。ビット速度は変調速度(Baudまたはsymbol/s)×シンボルビット数(bit/symbol)である。現在主流の光信号変調方式はNRZ(Non-Return Zero)とPAM-4(4 Level Pulse Amplitude Modulation)であり、シンボルビット数はそれぞれ1bit/symbolと2bit/symbolだ(図4)。400G-FR4やDR4では50GBaud PAM-4、つまりビット速度は500GBaud × 2bit/symbol = 100Gbit/sである。

 光伝送では、レーザー雑音、受信器の雑音やファイバーケーブルの光コネクター間多重反射などにより、SNR(Signal-to-Noise Ratio)が劣化する。故に、低価格、低消費電力が要求される短距離ではPAM-4より多値の変調方式は困難だとされる。このため、シンボル速度を上げる変調器の研究開発が盛んだ。

 現在は50GBaudが実用化されており、次世代である100GBaudの開発競争となっている。InP DML/EMLは着々と100GBaudの実用化に向かっている。Si-photonicsは、新変調器やInP、LN(Lithium Nitride)やポリマーなどの新材料を導入したHeterogeneous Si-photonicsの研究にシフトしている。学会発表レベルではほとんどの技術で100GBaud変調の実験が行われ、PAM4による200Gbit/sを達成している(実は測定器制限)。さらに東京工業大学とNTTが最近、200GBaudを超える変調が可能となる帯域100GHz以上の新構造のDMLを、共同発表している。


図4 NRZとPAM4(Source Ethernet Alliance)

(b)波長多重数

 光伝送では、複数の異なる波長の光信号を1本のファイバーで伝送できる。これを、波長分割多重、WDM(Wavelength Domain Multiplex)という。このWDMは、波長間隔を適正に取れば情報に影響を与えず多重化を達成できる。このため1本のファイバーの伝送容量を増やす有効な手段であり、光伝送の強みである。

 長距離伝送では、100波程度あるいはそれ以上の光信号が多重化されているが、狭い波長間隔と正確な波長管理が必要になる。短距離では、レーザーの製造ばらつきや温度変化を考慮してCWDM4という主に4波長が使われてきた。

 しかし、伝送を阻害するファイバー分散(Dispersion)という特性により、800Gに使用されると考えられるCWDM4 100GBaudで2km伝送が限界とされる。200GBaudではその4分の1となる500mである。この距離を伸ばすには、分散補償や変調方式の工夫といったテクニックが必要となってくる。また、レーザーの温度管理は必要だが波長間隔が少し狭いLWDMという規格も使用されるかもしれない(図5)。


図5 CWDM4とLWDM波長(Source: CW-WDM MSA)。下部は長距離伝送の波長間隔(ITU-T WDM)をこの波長帯に当てはめた例

 2020年6月に、波長に関するCW-WDM MSA(Continuous-Wave Wavelength Division Multiplexing Multi-Source Agreement)がアナウンスされた。これは、外部光源から波長安定光を供給し、その光を変調するSi-photonicsを念頭に、波長仕様を定義することを目的としたMSAである。32波長までの定義を目指している。外部光源に関しては後述するが、議論の多いところである。いずれにしろ、波長数を増やす努力は光伝送における大容量化の特長ある手法なので議論を進めるべきだろう。

(c)光伝送路数

 先にも述べたが、ハイパースケールデータセンターでは、1本のファイバーにできるだけ多くの情報を伝送することが要求されている。特に、ファイバーケーブルがインフラとして設定されているLeaf/Spineネットワークではその要求が強い。一方、新しくファイバーを敷設する必要があるが、新しいファイバーで実現する方式も示されている。

 それが、1本のファイバーに光の通り道であるコアを複数有するファイバー、Multi-core Fiber(MCF)である。長距離伝送での応用が期待され、実用化に向けて試験中だ。

 MCFは、CPOガイドラインでも検討対象として取り上げられている。図6に例を示すが、さまざまな本数のコアを有するファイバーが開発されており、温度変化などに対応できる同心円状にコアを並べたものが多い。データセンター向けに、図6右のように4コアを2段にした構造もあり、Si-photonicsに適用したとLuxtera(住友電工共著)が学会発表している。


図6 MCFの例(Source: 住友電工)

 MCFを利用した例を図5に示す。波長多重を用いれば、16×100Gも1本の4コアファイバーで送ることができる。


図7 1コア(Mono-core)と4コアの使用例

 だが、課題は多い。まず、一度布設したら20年はインフラとして使用することから、そのコア数は柔軟に増やせないことである。また、市場でMCFのコア数が増え続け、その時々でさまざまなコア数のデータセンターが設立されれば混乱が起こる。光モジュールでさまざまなコア数に対応するのは難しい。とはいえ、これは技術的な問題ではないので解決は可能かもしれない。

 技術的な問題としては、小型低価格の光コネクター、コアを別々の1コアファイバーに分岐するFan-outなどが挙げられる。まずは比較的高コスト耐力のある長距離伝送で適用し、こなれてきたところで、大量だが低コスト要求の短距離に市場拡大していくのがいつものパターンである。まだ長距離伝送でフィールド試験が始まったばかりだが、システム設計者には注視していてほしい技術である。

(次回に続く)


筆者プロフィール

高井 厚志(たかい あつし)

 30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。

 日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。

 さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。


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