ポリマー鎖間の電荷輸送性を高める分子設計法開発:最大で3桁も高い移動度を実現
東京大学と筑波大学らの研究グループは、半導体ポリマー(高分子半導体)鎖間の電荷輸送性を高めることができる分子設計法を新たに開発した。低分子半導体に匹敵する高性能半導体ポリマーの開発につながる技術とみられている。
π共役系モノマーユニットを半導体ポリマーに組み込む
東京大学と筑波大学らの研究グループは2021年3月、半導体ポリマー(高分子半導体)鎖間の電荷輸送性を高めることができる分子設計法を新たに開発したと発表した。低分子半導体に匹敵する高性能半導体ポリマーの開発につながる技術とみられている。
有機半導体は、低分子半導体と高分子半導体に大別される。研究グループはこれまで、低分子半導体の分子設計において、同位相の軌道が分子長軸方向に広がった「π共役系ChDT骨格」を開発し、世界最高レベルの高い移動度となることを示してきた。
今回は、ChDT骨格をモノマーユニットとしてポリマーの主鎖に組み込んだ。開発した半導体ポリマー「PChDTBT」は、特異な分子軌道形態を有するπ共役系モノマーユニットを組み込むことにより、ポリマー鎖間の電荷輸送性が高まることを実証した。
大型放射光施設「SPring-8」を用いて、このPChDTBTを集合体構造解析した。これにより、分岐型アルキル側鎖の分岐位置がポリマー主鎖から遠ざかり、π共役平面の配向様式が基板に対して平行の「face-on配向」から、垂直となる「edge-on配向」に変化することが分かった。
基板と平行した方向の電荷輸送について、edge-on配向へと変化するPChDTBT誘導体は、ポリマー鎖間の電荷輸送が有効に働く。このため、face-on配向のものに比べると、最大で3桁も高い移動度となった。また、量子化学計算による結果から、ポリマー鎖内のPChDTBTによる電荷輸送性は、既存の半導体ポリマーよりも不利となるが、ポリマー鎖間で有効な電荷輸送を実現することで、既存の半導体ポリマーに匹敵する移動度が得られることが分かった。
今回の成果により、ポリマー鎖内とポリマー鎖間の電荷輸送に関わる分子設計を複合的に反映させ、それぞれの電荷輸送性を同時に高めていくことができるという。これにより、低分子半導体に匹敵する高性能半導体ポリマーの開発が可能となった。
今回の研究成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の黒澤忠法助教と、産業技術総合研究所産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリの研究員なども兼務する岡本敏宏准教授や竹谷純一教授および、筑波大学数理物質系の石井宏幸助教らによるものである。
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