異トポロジーの絶縁体界面で、高効率に磁化反転:界面に流すトポロジカル電流が起源
理化学研究所(理研)と東京大学、東北大学らによる共同研究グループは、トポロジカル絶縁体と強磁性絶縁体の積層構造を独自に開発、これに電流を流すことで磁化方向が反転することを実証した。
トポロジカル絶縁体と強磁性絶縁体を独自構造で積層
理化学研究所(理研)と東京大学、東北大学らによる共同研究グループは2021年3月、トポロジカル絶縁体と強磁性絶縁体の積層構造を独自に開発、これに電流を流すことで磁化方向が反転することを実証したと発表した。低消費電力スピントロニクス素子への応用に期待する。
共同研究グループは今回、独自に開発したトポロジカル絶縁体「(Bi1-xSbx)2Te3」と強磁性絶縁体「Cr2Ge2Te6」の薄膜積層界面で、強い磁気近接効果が生じることに着目した。そこで、分子線エピタキシー法を用い、InP半導体基板上に(Bi1-xSbx)2Te3とCr2Ge2Te6を積層した試料を作製。積層界面は混じりがない高品質の結晶薄膜とした。
実験ではまず、ホールバー形状に加工した薄膜試料をCr2Ge2Te6層が強磁性となる2K(約−271℃)まで冷やした。次に、試料面内に0.1T(テスラ)の弱い磁場を加え、磁場と平行あるいは反平行方向に電流を印加しながら、異常ホール効果を通して磁化の向きを測定した。
この結果、約2mAを印加すると磁化方向が上向きから下向き(あるいはその逆)に反転することが分かった。弱い磁場の向きを反転した場合も、磁化反転方向は変わることが分かった。これらのことから、磁化反転の起源が、電流による発熱や磁場発生によるものではなく、スピントルク発生によるものだと確認した。
さらに共同研究グループは、磁化反転のしきい値電流と強磁性絶縁体の磁気特性から、トポロジカル絶縁体のBi(ビスマス)とSb(アンチモン)の組成比率を変えて、磁化反転効率を評価した。界面伝導が支配的になる状況において、磁化反転効率は最大となる。このことから、磁化反転を支配しているのは、界面で生じたトポロジカル電流であることが明らかとなった。
共同研究グループによれば、トポロジカル絶縁体と強磁性絶縁体界面での磁化制御が「室温」で可能になれば、スピントロニクス素子への応用が期待できるとみている。
今回の共同研究は、理研創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームの茂木将孝客員研究員や十倉好紀チームリーダー、吉見龍太郎研究員、強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター、創発光物性研究チームの小川直毅チームリーダーおよび、東京大学大学院工学系研究科の藤村怜香氏(修士課程2年)と東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らが行った。
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