塗るだけで水濡れ短絡を防ぐ、木材由来のナノ繊維で:大阪大学が開発(2/2 ページ)
大阪大学は、木材由来のナノ繊維を電子回路にコーティングすることで、水濡れによる故障(短絡)を長時間抑制する技術を発表した。開発したのは、大阪大学産業科学研究所の春日貴章氏、能木雅也教授らの研究グループ。
ナノ繊維のゲル膜が銅イオンを捕捉
この現象を電子顕微鏡や成分分析によって詳しく調べてみると、コーティングした回路では陽極の周辺にナノ繊維のゲル膜が形成されていることが分かった。このゲル膜が、陽極から溶け出した銅イオンを捕捉してイオンマイグレーションを防ぐため、樹状析出が生成されずに短絡が起こらないのではないかと春日氏は説明する。
乾燥した状態では、ナノ繊維は基板上に隙間なく積層している。これが水に触れると、ナノ繊維が吸水してほぐれてくる。ナノ繊維は1本1本が負(マイナス)に帯電しているため、陽極(プラス)に電気泳動する。そこで、負に帯電したナノ繊維が、陽イオンである銅イオンを捕捉して反応し、ゲル化、つまりほぐれなくなるというメカニズムだ。
このメカニズムにより、「コーティングに傷がついても、また陽極に集まって固まるので、濡れても割れても短絡を抑制できるようになる」と春日氏は述べる。「この性質を生かせば、さまざまな応用が可能なのではないか。単体で使うのではなく既存の防水技術と組み合わせることで、補完的な役割を果たすこともできる」(同氏)
さらに、大阪大学が開発している、木材由来の透明な紙(ナノペーパー)を活用したセンサーデバイスと組み合わせれば、どちらも木材由来ということで、「生分解性を損なわずに、安全性(=短絡防止)も向上できる」(春日氏)
春日氏によれば、ナノ繊維は、銅だけでなく銀についても短絡抑制の効果があることを確認している。
今回の研究はJST(科学技術振興機構)未来社会創造事業の一環として行われており、実用化については同プロジェクトのスケジュールに沿って進めていく予定になるという。
春日氏は、ナノ繊維をコーティング剤に選択した理由として、「もともとはナノ繊維で短絡が抑制できるというアイデアは全くなく、ナノペーパー基板上の回路がどれくらいでショートするのか調べてみよう、というところから始まった。実験を始めると一部のナノペーパー基板ではいつまでたっても短絡せず、もっと分析してみようと考えた。ナノ繊維が電極(陽極)の周りに集まってくるというメカニズム自体、頭の片隅にもなかったことなので、大変に驚いた」と語った。
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