大阪大ら、環状構造の有機EL発光材料を開発:有機EL素子のEQEは11.6%
大阪大学らによる共同研究グループは、ナノサイズの空孔をもつ環状構造の熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を開発した。発光材料に新開発の環状TADF分子を用いて試作した有機EL素子は、11%台の最高外部量子効率(EQE)となった。
「ジベンゾフェナジン」と「p-フェニレンジアミン誘導体」を採用
大阪大学らによる共同研究グループは2020年1月、ナノサイズの空孔をもつ環状構造の熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を開発したと発表した。発光材料に新開発の環状TADF分子を用いて試作した有機EL素子は、最高外部量子効率が11%台と極めて高い値を示した。
今回の成果は、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻の和泉彩香博士後期課程大学院生と武田洋平准教授、南方聖司教授らに加え、オーストラリアモナシュ大学のHeather F.Higginbotham博士、ポーランドシレジア工科大学のAleksandra Nyga大学院生、英国ダラム大学のPatrycja Stachelek博士、大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻の藤内謙光准教授、デンマーク工科大学のPiotr de Silva助教、ポーランド シレジア工科大学のPrzemyslaw Data准教授らの共同研究によるものである。
研究グループはTADF材料の研究過程で、U字型π共役分子である「ジベンゾフェナジン」を独自に開発していた。ジベンゾフェナジンは、「環構築に有効な幾何学構造である」ことや「優れた光・電子機能を有する」などの特長がある。今回は、ジベンゾフェナジンを鍵骨格として、電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)が交互に繰り返し環状に連結した、D-Aπ共役分子構造をもつTADF材料の開発に取り組んだ。
具体的には、電子アクセプターに「ジベンゾフェナジン」を、電子ドナーに「p-フェニレンジアミン誘導体」をそれぞれ用い、「D-A-D-A」を繰り返す構造の環状分子を合成する手法を確立した。開発した環状分子は、結晶中における立体配座ならびに積層様式の違いによって、異なる発光色を示すことも分かった。
研究グループは、開発した環状分子とは別に、環構造を展開した直線状類縁体も合成し、それぞれの物性を比較した。この結果、環状分子が直線状分子よりも発光におけるTADFの寄与が高く、TADF材料として優れていることが分かった。
開発した環状TADF分子を発光材料として用い、有機EL素子を試作したところ、最高外部量子効率(EQE)は11.6%となった。従来の蛍光材料を用いた場合、EQEは最大5%、直線状類縁体を発光材料として用いた場合でも6.9%といわれており、今回の数値は従来に比べて極めて高いことが分かる。
研究グループは、今回の研究成果によってTADF材料設計指針の多様性が広がるとみている。特に、環状構造の特長でもあるナノサイズの空孔を活用すれば、ガスや水分子といったゲスト小分子の取り込みに応答した、光・電子機能の制御を可能にする発光材料の開発にもつながる、と期待する。
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