電機8社20年度決算、巣ごもり需要を生かしたソニーとシャープが好決算:大山聡の業界スコープ(41)(3/3 ページ)
2021年5月14日、東芝の決算発表が行われ大手電機メーカー8社の2020年度(2021年3月期)決算が出そろった。各社とも2020年度はコロナの影響を余儀なくされたが、この影響がプラスに出た企業がある点に注目したい。マイナスに出た企業は、いずれも2021年度での回復を見込んでいるが、各社の取り組みや戦略にそれぞれ特徴がある。そこで各社別に状況を確認してみたい。
コネクティッドSを中核部門に育てようとするパナソニック
パナソニックの2020年度売上高は6兆6988億円(前年比10.6%減)、営業利益2586億円(同352億円減)、当期利益1651億円(同606億円減)であった。
アプライアンス部門は、スマートライフネットワーク(かつてのAVC製品が中心)の減販で減収だったが、コスト改善により増益を達成した。ライフソリューションズ部門は、市況悪化やパナソニックホームズの非連結化で減収減益になった。コネクティッドソリューションズ部門は、5G関連事業は好調だったものの、アビオニクス事業の低迷が大きく、減収減益。オートモーティブ部門は、上半期の落ち込みが大きく減収だったが、固定費削減や材料合理化などで増益になった。インダストリアルソリューションズ部門は、半導体事業譲渡などの影響で減収だったが、データセンター、FA、車載向けなどが好調で増益になった。
2021年度の見通しは、売上高7兆円(同4%増)、営業利益3300億円(同714億円増)、当期利益2100億円(同449億円増)を見込んでいる。全ての部門で増益を見込む中、特にコネクティッドソリューションズ部門で大幅増益(同380億円増)を見込んでいる。同部門に対しては、中長期的にもBlue Yonder社買収で強化を進めるなど、今後同社の中核部門に育てようとする意気込みが伺える。ただし、7000億円規模の買収の成果については、数年経ってみないと分からない。
ディスプレイ事業の収益安定がカギとなるシャープ
シャープの2020年度売上高は2兆4259億円(前年比7.2%増)、営業利益831億円(同317億円増)、当期利益2532円(同395億円増)であった。
スマートライフ部門は、プラズマクラスター、洗濯機、調理家電など白物家電が好調で、デバイスも好調に推移し、増収増益になった。8Kエコシステム部門は、PC・タブレット向け大型ディスプレイが好調で、完成品のテレビも増収に貢献し、増収増益になった。ICT部門は、売上は横ばいだったが、スマホのモデルミックスの変化で減益。
2021年度の見通しは、売上高2兆5500億円(同5.1%増)、営業利益1010億円(同179億円増)、当期利益760億円(同228億円増)を見込んでいる。各社がコロナの悪影響に苦しむ中、白物家電およびディスプレイの各事業を順調に伸ばしている点はポジティブに評価できよう。ただし、ディスプレイ事業は市況変動が激しいので、中長期的には予断を許さない。この事業の収益をいかにして安定させるかが同社にとって最大の課題だろう。
巣ごもり需要で過去最高益達成のソニー
ソニーの2020年度売上高は8兆9994億円(前年比9.0%増)、営業利益9719億円(同1264億円増)、当期利益1兆1718億円(同5896億円増)と、過去最高を更新した。
ゲーム&ネットワークサービス分野は、新型ゲーム機「PS5」などハードの売り上げが伸び、ソフトも順調に伸びて増収増益になった。音楽分野は、ストリーミングサービスの増加に加え、「鬼滅の刃」の大ヒットで増収増益だった。映画分野は、コロナの影響で劇場公開作品の大幅減やテレビ番組の制作の遅れなどで減収だったが、映画制作におけるマーケティング費用の削減、ホームエンターテインメントやテレビ配信の増加、メディアネットワークの増加などで増益を達成した。エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野は、デジタルカメラの販売不調などで減収だったが、オペレーション費用の削減や製品ミックスの改善などで増益になった。イメージング&センシング・ソリューション分野は、モバイル機器向けイメージセンサーの販売減で減収減益になった。金融分野はソニー生命が好調で増収増益だった。
2021年度の見通しは、売上高9兆7000億円(同8%増)、営業利益9300億円(同419億円減)、当期利益6600億円(同5118億円減)を見込んでいる。コロナによる巣ごもり需要の増加でゲームや音楽などの事業が好調に推移した同社としては、2020年度実績を「出来すぎ」と見ている様子が伺える。
総括
今回の決算で、減収減益になった日立製作所、東芝、三菱電機、パナソニックの4社は、いずれも産業機器分野、車載分野での下振れが要因となっている。2021年度はそれらがどこまで回復できるかが焦点になる。減収ながらも増益を達成したNEC、富士通の2社は、元々コロナによる下振れリスクが小さかった。この両社はDX関連需要増加の追い風を今後、生かすことができるかどうかがポイントだろう。コロナ禍にも関わらず増収増益になったソニー、シャープの2社は、巣ごもり需要が追い風となった点が共通している。2021年度も増収増益を見込むシャープの安定性には敬意を表したい。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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