MRAM用単結晶MTJ素子を300mmウエハー上に作製:トンネル障壁層に新材料を採用
産業技術総合研究所(産総研)は、MRAM用の単結晶MTJ(磁気トンネル接合)素子をシリコンLSIに集積化するための3次元積層プロセス技術を開発した。
3次元積層技術でMTJ素子を集積化
産業技術総合研究所(産総研)新原理コンピューティング研究センターの湯浅新治研究センター長とスピンデバイスチームの薬師寺啓研究チーム長、デバイス技術研究部門の高木秀樹総括研究主幹らは2021年6月、MRAM用の単結晶MTJ(磁気トンネル接合)素子をシリコンLSIに集積化するための3次元積層プロセス技術を開発したと発表した。
MRAMはMTJ素子を用いた不揮発性メモリである。現在は、酸化マグネシウム(MgO)トンネル障壁を用いた多結晶MTJ素子を、多結晶の金属配線上に直接堆積している。ところが、5nm技術世代以降になると、MTJ素子の特性ばらつきが大きくなるなど課題もあり、従来方式で微細化を進めるには限界があるといわれてきた。
そこで研究チームは、新材料を用いた単結晶MTJ素子とその集積化技術に着目した。今回はMgOに代わる新材料として、スピネル酸化物「MgAl2O4」を用いた単結晶MTJ薄膜を、300mmシリコンウエハー上に作製した。さらに、ウエハー直接ボンディングによる3次元積層技術を適用し、単結晶MTJ素子をMRAM用シリコンLSIに集積化した。
新たに開発した3次元積層プロセスはこうだ。まず、エピタキシャル成長により、単結晶MTJ薄膜を300mm単結晶シリコンウエハー上に堆積。そして、トンネル障壁層にはスピネル酸化物のMgAl2O4を用いた。MgAl2O4トンネル障壁層とCo/Fe強磁性電極層の界面は原子レベルで平たんとなり、結晶格子の欠陥がほとんどない、高品質の単結晶MTJ薄膜であることが分かった。
次に、単結晶MTJ薄膜ウエハーと、別に用意したMRAM用LSIウエハーを直接ボンディングした。この工程では産総研が独自に開発したタンタルキャップ層の表面平たん化技術を用いた。これによって原子レベルで平たんな薄膜表面を実現した。その後のシリコン剥離プロセスでは、独自調合のアルカリ溶液を使ったウェットエッチングを行い、単結晶MTJ薄膜に損傷を与えることなく、裏面シリコンウエハーを除去することができた。
さらに、MTJ薄膜を直径約25nmの円柱状に加工しMTJ素子を形成。最後に誘電体と上部の金属配線を作り込むことで、ナノサイズの単結晶MTJ素子をSTT-MRAM用LSIに集積化した。
研究チームは、作製したLSIのMTJ素子が、その後も単結晶を維持していることを確認するため、MgAl2O4トンネル障壁層とその上下にある電極層のナノビーム電子線回折を観察した。これにより、MTJ素子は結晶粒界が無い単結晶を維持していることを確認した。開発した単結晶MTJ素子における性能のふぞろいは、従来型の多結晶MTJ素子に比べて小さいことも確認できたという。
研究チームは今後、新材料を用いて開発した単結晶MTJ素子を強磁性電極にも適用し、MRAMの超微細化や電圧駆動MRAMのための基盤技術として活用していく予定である。
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