NIMS、Mg3Sb2系材料で高い熱電変換性能を実現:既存のBi2Te3系材料に匹敵
物質・材料研究機構(NIMS)は、n型Mg3Sb2系材料に、わずかな銅原子を添加することで熱伝導率を大きく低減し、同時に高い電荷移動度を実現することに成功した。この材料を用いて試作した熱電モジュールは、希少元素のTeを用いたBi2Te3系材料に匹敵する熱電変換効率が得られたという。
IoTセンサーの自立電源など、幅広い応用に期待
物質・材料研究機構(NIMS)は2021年4月、n型Mg3Sb2系材料に、わずかな銅原子を添加することで熱伝導率を大きく低減し、同時に高い電荷移動度を実現することに成功したと発表した。この材料を用いて試作した熱電モジュールは、希少元素のTeを用いたBi2Te3系材料に匹敵する熱電変換効率が得られたという。
IoTセンサー向け自立電源の1つとして、廃熱を有効活用する熱電発電(熱電変換)デバイスが注目されている。特に、排出される熱の約90%は、320℃以下の低温度域におけるものだという。低温度域に向けた熱電モジュールにはこれまで、熱電変換性能に優れるBi2Te3系材料が用いられてきた。ただ、この主成分は希少元素のTeであることから、「加工性が良くない」「熱電モジュールの低コスト化が難しい」という指摘もあった。
研究グループは、低温領域で希少元素をなるべく用いない、高性能熱電材料の開発に取り組んできた。そして今回、Mg3Sb2系材料にわずかな銅原子を添加することによって、熱電性能を高める2つの効果が得られることを発見した。
その1つは、原子間隙に挿入された少量の銅原子によって、熱伝導を支配するフォノンの伝搬速度が遅くなり、熱伝導率を大きく低減できることである。この結果、利用熱が失われることを防ぎ、熱電変換効率を高めることが可能になった。
もう1つは、粒界へ挿入された銅原子によって電子の散乱が抑えられ、多結晶体試料でありながら単結晶材料に匹敵する高い電荷移動度を実現できたことである。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失が抑えられたという。
NIMSは、開発したn型Mg3Sb2系材料と、同じく高性能化したp型材料を組み合わせた8対の「熱電モジュール」を、産業技術総合研究所(産総研)と共同で作製し、その特性を評価した。この結果、低温度域において熱電変換効率7.3%を実現することができた。これは、Bi2Te3系熱電モジュールの世界最高性能に匹敵する値だという。材料性能から見積もった理論効率では、約11%に達する見通しである。
今回の研究成果は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点熱エネルギー変換材料グループの森孝雄グループリーダーと、産総研省エネルギー研究部門の李哲虎首席研究員らによるものである。
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