IBMがプロセス開発の“契約不履行”でGFに賠償請求か:7nm以降の先端ノードをめぐり
IBMがGLOBALFOUNDRIES(GF)を契約不履行で訴え、25億米ドルの損害賠償を求めている。IBMはこの訴えをGLOBALFOUNDRIESに通告したが、米国EE Timesに対しては、まだ裁判所には提訴しておらず、従って世間に公表する準備もできていないと伝えてきた。GLOBALFOUNDRIESは既に米国ニューヨーク州最高裁判所に対し、この係属中の訴訟を価値がないものとして却下するよう申し立てを行った。
IBMがGLOBALFOUNDRIES(GF)を契約不履行で訴え、25億米ドルの損害賠償を求めている。IBMはこの訴えをGLOBALFOUNDRIESに通告したが、米国EE Timesに対しては、まだ裁判所には提訴しておらず、従って世間に公表する準備もできていないと伝えてきた。GLOBALFOUNDRIESは既に米国ニューヨーク州最高裁判所に対し、この係属中の訴訟を価値がないものとして却下するよう申し立てを行った。
IBMは2014年当時、半導体製造事業から撤退しようとしていた。老朽化した製造施設の一部を売りに出したが一つも売却先を見つけることができず、最終的にはGLOBALFOUNDRIESに実質的に15億米ドルを支払い引き取ってもらった。両社は当時、IBMがそれまで開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスをGLOBALFOUNDRIESが完了させることで合意した(実際にGLOBALFOUNDRIESはそうした)。GLOBALFOUNDRIESはIBMに14nmチップを供給し(これも実際にそうした)、同時に次のノードの開発に取り組む計画だった。「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造事業での競争状況を踏まえ、GLOBALFOUNDRIESは10nmを飛び越えてすぐに7nmに進んだ。GLOBALFOUNDRIESは、IBMがこの決定にも賛同したと主張している。
当時GLOBALFOUNDRIESは、7nm開発においてTSMCとSamsung Electronicsに大幅に後れを取っており、2018年には、同プロセスの開発を完了できない見込みであることを発表した。7nmの開発を完了させていたら、財務面で破滅的な状態に陥っていた可能性があると同社は主張している。
IBMによる契約不履行の訴えの核心は、GLOBALFOUNDRIESが7nmチップ製造プロセスの開発に失敗したことである。
前述したように、IBMはまだ裁判所に訴状を提出していないが、EE TimesにはGLOBALFOUNDRIESの反訴に関して次のような声明を送ってきた。
「GLOBALFOUNDRIESは、高性能半導体チップの開発/供給を含め、IBMに対する法的義務を果たしていない。この訴訟は、そうした不正と意図的な契約不履行を隠蔽するためのGLOBALFOUNDRIESによるさらにもう一つの試みである。IBMはGLOBALFOUNDRIESが次世代チップを供給できるよう同社に15億米ドルを提供したが、GLOBALFOUNDRIESは最後の支払いを受けてすぐにIBMから完全に離れ、自社の発展のためにIBMとの取引で得た資産を売却した。それによる重大な損害の回復を探る機会をIBMは歓迎する」
7nmを撤退したGFとSamsungに切り替えたIBM
一方、GLOBALFOUNDRIESはIBMから支払われた15億米ドルと、追加の数十億米ドルも投じてIBMから譲渡された製造設備の一部を改修し、14nmプロセスを開発し、(GLOBALFOUNDRIESによればIBMが満足するように)14nm製品を生産し、7nmプロセスの開発に着手したのだという。
だが、GLOBALFOUNDRIESが数十億米ドルの投資をしている間に、TSMCやSamsungは数百億米ドルの投資をしていた。GLOBALFOUNDRIESは、GFは、競争力を維持するための資本が不足しており、仮に7nmプロセスの開発に成功したとしても、マーケティングの観点からは遅すぎたと主張する。
そのため、GLOBALFOUNDRIESは7nmプロセスの開発から撤退したのだ。2018年のことである。同社は、戦略を転換し、1桁台のプロセスノードで製造する必要がないチップの生産に集中した。2020年、同社は実際に利益を上げ、最近ではIPO(新規株式公開)を間近に控えているとのうわさもある。
IBMは結局、7nmチップの生産をSamsungに委託した。
現在GLOBALFOUNDRIESは、「IBMは、7nmチップが十分な競争力を持つ時期にSamsungから7nmウエハーを購入できたため、Samsungへの切り替えは結果的にIBMの利益になった」と主張している。さらに、「GLOBALFOUNDRIESが7nmプロセスを完了した場合に、GLOBALFOUNDRIESがIBMに請求したであろう価格よりもずっと安価に、Samsungから7nmウエハーを入手できた」ことにも言及している。
GLOBALFOUNDRIESの法務担当シニアバイスプレジデントであるSaam Azar氏は、EE Timesに対し、「われわれは義務を果たした。IBMも、当社と協業していた時よりもうまくやっている」と語った。
繰り返すが、これは2018年のことである。GLOBALFOUNDRIESの文書には、その時から両社は連絡を取っていないと書かれていた。確かにIBMはそれ以降、契約違反を訴えていなかった。
突然届いた訴状
そして2年後、Azar氏は、「ニューヨークの法律事務所から訴状が届いた」と述べた。
GLOBALFOUNDRIESは、係争中のIBMの訴訟を却下する嘆願書を公開しただけでなく、世論にも訴えている。米国政府が国内の半導体産業を積極的に支援しようとしている今、米国の2つの企業が争うには最悪のタイミングであると、同社は棄却申立書で説明している。
GLOBALFOUNDRIESがIPOを準備していたとしたら(IPOを正式に発表していないのでコメントできないが、さまざまなメディアが同社のIPOが300億米ドルもの利益をもたらす可能性があるという記事を掲載している)、25億米ドルの訴訟は重要であり、株式公開に悪影響を及ぼす可能性が高く、IBMもそれを知っているはずだと、Azar氏はEE Timesに語った。
業界アナリストも、2021年6月7日(米国時間)に、この件について意見を述べている。Tirias ResearchのアナリストであるJim McGregor氏とKevin Krewell氏に話を聞いた。
McGregor氏は、IBMの行動のタイミングについてメールで次のように語った。「このタイミングはそれほど疑わしいものではない。GLOBALFOUNDRIESは現在、黒字決算を達成している。しかし、もしGLOBALFOUNDRIESが最先端プロセス開発の戦略を続けていたとしたら、恐らく同社はまだ赤字で、他のファウンドリーとの競争力もなかったかもしれない。それはIBMにとっても、同様に悪い結果になっていただろう」
Krewell氏は、「仮にGLOBALFOUNDRIESが7nmプロセスを追求し続けていたら、恐らく厳しい財務状況に陥っていたはずだ。IntelやSamsungですら、EUV(極端紫外線)リソグラフィへの移行に失敗している」と述べる。EUVリソグラフィは、7nm以下のIC製造には必須となる技術だ。
McGregor氏は、IBMの訴状やGLOBALFOUNDRIESの反訴を見たわけではないとしながらも、理論的には「もし契約に、GLOBALFOUNDRIESによる先端プロセスノードのサポートが含まれていたならば、IBMは正当な請求権を持っている。IBMはGLOBALFOUNDRIESに半導体資産、IP(Intellectual Property)、そして15億米ドルを提供したのだから」と述べた。
Krewell氏は、「裁判所は、当事者の動機ではなく、契約法に従うべきである」と付け加えた。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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