東芝、ソリッドステートLiDAR向け受光技術を開発:従来比で容積は1/3、解像度は4倍
東芝は、「ソリッドステート式LiDAR」向けの受光技術と実装技術を新たに開発した。新技術を採用すると、200mの最長測定距離を維持しつつ、従来に比べサイズが3分の1で、解像度は4倍となるLiDARを実現できるという。
高度な自動運転や高精度な社会インフラの監視を実現
東芝は2021年6月、「ソリッドステート式LiDAR」向けの受光技術と実装技術を新たに開発したと発表した。新技術を採用すると、200mの最長測定距離を維持しつつ、従来に比べサイズが3分の1で、解像度は4倍となるLiDARを実現できるという。
LiDARは、照射したレーザ光が、物体に反射して戻るまでの時間を計測して距離を測る技術である。東芝は2020年7月、LiDARの小型化と低コスト化を可能にする2次元受光デバイス「SiPM(Silicon Photo Multiplier)」を開発した。これまで、ソリッドステート式LiDARの課題といわれてきた、「測定距離」や「解像度」の問題を解決した製品である。ただ、高度な自動運転や社会インフラ監視を高い精度で行うためには、ソリッドステート式LiDARのさらなる性能向上や、耐環境性を高めることが急務となっていた。
そこで今回、SiPMの感度をさらに高め、小型化を可能にする受光技術を開発した。SiPMは、受光セルとこれを制御するためのトランジスタ回路で構成されている。これまでトランジスタ回路は全て中耐圧プロセスで製造していた。
新たに開発した技術は、このトランジスタ回路を低圧部と高圧部に分けた。コア部分となる回路は、微細な低耐圧プロセスに変更することで集積度を高めた。また、受光セルとコア回路の間には、高耐圧トランジスタによる高耐圧部を設けた。これによって、受光セルに高電圧を供給することが可能となり、SiPMの感度向上と小型化を両立させた。
さらに、トランジスタと受光セルの境界面に、新開発の絶縁トレンチを挟んだ。この結果、トランジスタを保護するためのバッファ層が不要となり、さらなる小型化が可能となった。当初開発したSiPMと比べ、サイズは4分の1に小型化し、感度は1.5倍にできたという。
東芝は、今回開発したSiPMを用い、LiDARモジュールを試作した。試作品の解像度は1200×80画素で従来品の4倍とし、容積は350cc以下で従来品に比べ3分の1である。また、SiPMの温度にあわせて、受光セルへ供給する電圧を最適化する「自動温度補正技術」を組み合わせることで、温度変化が大きい環境下でも高い性能を維持することができるという。
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