東北大ら、酸化物蓄電材料の酸素脱離現象を解明:さまざまな電池材料にも適用可能
東北大学と高輝度光科学研究センターの共同研究グループは、リチウムイオン電池に用いる酸化物正極材料から、酸素が抜ける現象を詳細に評価し、そのメカニズムを解明した。高い安全性が求められる次世代蓄電池への応用が期待される。
クーロン滴定法とX線吸収分光測定を組み合わせて評価
東北大学多元物質科学研究所の雨澤浩史教授と中村崇司准教授、木村勇太助教および、高輝度光科学研究センターの為則雄祐主席研究員と鶴田一樹研究員らによる共同研究グループは2021年6月、リチウムイオン電池に用いる酸化物正極材料から、酸素が抜ける現象を詳細に評価し、そのメカニズムを解明したと発表した。高い安全性が求められる次世代蓄電池への応用が期待される。
リチウムイオン電池では、酸化物正極材料(リチウム−遷移金属複合酸化物)から抜けた酸素が電解液などと反応し、蓄電池内部でガス発生や異常発熱などを引き起こすことが分かっている。しかし、酸素脱離現象のメカニズムなどはこれまで明らかになっていなかった。
そこで共同研究グループは、酸化物正極材料「LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM111)」を用い、クーロン滴定法によってNCM111の酸素脱離現象を評価。X線回折測定を行い、酸素脱離に伴う結晶構造の変化を明らかにした。
これらの結果から、「NCM111は約5mol%の酸素を格子から失っても還元分解しない」ことや、「酸素脱離が進行するほどLiとNiが格子位置を交換し、もともとの層状構造が乱れてランダム化する」ことが分かった。これらの現象は酸素脱離により電池特性が悪くなることを示すもので、実験でも還元処理によって充放電容量が低下することを確認した。
さらに、大型放射光施設「SPring-8」のBL27SUを用いたX線吸収分光測定により、酸素脱離時の還元挙動を評価した。これにより、「NCM111は酸素脱離の初期段階では、Ni3+が選択的に還元する」「Niの還元が止まるとCo3+が還元し始める」。また「5mol%程度の酸素脱離でMnは価数変化しない」ことが分かった。
これらの結果から研究グループは、「高価数状態のNi3+が、材料中の酸素を不安定化させ、酸素脱離を促進する」と推察した。この仮説を検証するため、意図的にNi3+量を増加させたNCM111を準備して、その酸素脱離挙動を評価した。これにより、Ni3+が多い材料では、通常の材料よりも酸素脱離が活発に起こることを確認した。
これらの結果に基づき研究グループは、遷移金属が高価数状態にあることが酸素の不安定化につながるという新たな仮説を提唱した。遷移金属酸化物はリチウムイオン電池に加え、さまざまな次世代型蓄電池(Naイオン電池、Kイオン電池、Mgイオン電池、アニオン電池など)にも使われる材料である。今回用いた評価手法は、これら次世代型蓄電池材料にも適用することが可能だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ニコンと東北大、低環境負荷で低抵抗ITO膜を製造
ニコンと東北大学多元物質科学研究所は、新たに開発した「高水分散性ITOナノ粒子」と環境負荷が低い成膜方法「ミストデポジション法」を組み合わせて、低抵抗の透明導電性薄膜を製造することに成功した。 - Wi-Fiの2.4GHz帯電波で発電、東北大学らが開発
東北大学とシンガポール国立大学の共同研究チームは、Wi-Fiに利用される電波を活用して、効率よく発電を行う技術を開発した。実証実験では、2.4GHzの電磁波を直流電圧信号に変換しコンデンサーを5秒間充電したところ、LEDを1分間発光させることに成功した。 - 東北大ら、カイラルスピン構造の恒常回転を発見
東北大学と日本原子力研究開発機構の共同研究チームは、高品質のノンコリニア(非共線的)反強磁性薄膜を独自に開発し、内部のカイラルスピン構造が無磁場中で恒常的に回転する現象を発見した。 - 磁石の向きを表面音波で制御、東北大が成功
東北大学らの研究グループは、表面音波(表面弾性波)が持つ角運動量を電子のスピンに移すことで、磁石の向きを制御することに成功した。 - カルシウムイオン電池用の新たな電解液を作製
東北大学は、カルシウムイオン電池用の電解質を新たに開発、これを有機溶媒に溶解させたカルシウム電解液を作製することに成功した。この電解液を用いて試作したカルシウムイオン電池が、室温で安定動作することを確認した。 - 東北大、3Dプリント技術で固体蓄電デバイスを製造
東北大学は、3Dプリンティング技術を用い、固体蓄電デバイスを製造することに成功した。ウェアラブル/フレキシブルデバイスに搭載可能な電源を実現するための基盤技術として注目される。