産総研、超伝導量子アニーリングマシンを開発:独自のアーキテクチャを採用
産業技術総合研究所(産総研)は、超伝導量子アニーリングマシンの開発と動作実証に成功した。従来方式に比べ1桁少ない量子ビット数で、組み合わせ最適化問題を解くことが可能になるという。
従来に比べ1桁少ない量子ビット数で、組み合わせ最適化問題を解く
産業技術総合研究所(産総研)新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎総括研究主幹らは2021年7月、デバイス技術研究部門と共同で、超伝導量子アニーリングマシンの開発と動作実証に成功したと発表した。従来方式に比べ1桁少ない量子ビット数で、組み合わせ最適化問題を解くことが可能になるという。
量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題をイジング模型の最小エネルギー状態探索問題に変換し、量子力学的重ね合わせを制御して近似解を求める手法である。カナダのベンチャー企業であるD-Wave Systems社は、2011年に超伝導量子ビットとグラフ埋め込み技術を利用した量子アニーリングマシンを商用化。2020年には5000量子ビット級の製品販売を始めている。
ところが、グラフ埋め込み技術を用いた従来の量子アニーリングマシンは、量子ビットのコピーを大量に用意する必要があり、大規模な組み合わせ最適化問題を扱えない、という課題があった。
産総研はこれまで、超伝導量子アニーリングマシンと超伝導量子コンピュータのハードウエア設計や製造、評価基盤技術の確立および、社会実装へ向けた研究開発に取り組んできた。そして、特定の最適化問題に特化した量子アニーリングマシンのアーキテクチャ(ASAC)を初めて提唱。これに基づき、古典2ビット乗算回路専用の超伝導量子アニーリングマシン(6量子ビット)を設計、製造した。
古典2ビット乗算回路の場合、解候補は64通り(26)あるが、この中で正解(正常動作)は16通り(24)だけである。10mKという極低温評価システムでの実験結果によれば、1万回の測定を行い80%以上の正答率が得られることを確認した。
産総研が提唱するASACを用いることで、必要最小限の量子ビット数で大規模な組み合わせ最適化問題を解くことが可能となる。冗長量子ビットの数は、グラフ埋め込み方式に比べ1桁少なくすることができるという。しかも、さまざまな組み合わせ最適化問題にも適応可能なアーキテクチャである。
産総研は今後、大規模な量子アニーリングマシンを製造し、極低温環境での動作実証を行い、ASAC方式の優位性を実証していく予定だ。また、実用化に向けて正答率をさらに高めていく。そのために必要となるノイズ低減技術や高品質量子ビット製造技術などの開発に取り組んでいく。
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