ミュオンと中性子によるソフトエラーに明確な違い:複数の量子ビームを活用して解明
ソシオネクストは、高エネルギー加速器研究機構、京都大学、大阪大学と協力し、宇宙線のミュオンおよび、中性子によって生じるソフトエラーは、その特徴が異なることを実験によって解明した。
ソフトエラーに対する効果的な評価、対策技術の開発を可能に
ソシオネクストは2021年7月、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、京都大学複合原子力科学研究所、大阪大学大学院情報科学研究科と協力し、宇宙線のミュオンおよび、中性子によって生じるソフトエラーは、その特徴が異なることを実験によって解明したと発表した。
半導体デバイスは、高性能化や低電力消費の実現に向けて、微細化や低電圧化が進む。このため、内部の情報が放射線によって書き換えられる「ソフトエラー」が発生しやすくなった。しかも、これまでは宇宙線由来の「中性子」が問題となっていたが、近年は「ミュオン」によるソフトエラーも懸念されている。ミュオンは、地球に降り注ぐ宇宙線全体の約4分の3を占めるが、その影響については十分な研究成果が報告されていないという。
宇宙線由来のミュオンには「負ミュオン」と「正ミュオン」があり、中性子にも「高エネルギー中性子」と「熱中性子」がある。今回の実験では、複数の量子ビームを用い環境放射線に含まれる宇宙線由来のミュオンと中性子を半導体デバイスに照射して、その影響を包括的に測定した。
具体的には、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオン科学実験施設(MUSE)の負および正ミュオンビーム、大阪大学核物理研究センター(RCNP)の高エネルギー中性子ビーム、京都大学研究用原子炉(KUR)の熱中性子ビームを用いて、環境放射線の影響を調べた。照射実験には20nm CMOSプロセスで製造したSRAMを用いた。
実験結果により、ソフトエラー発生確率と複数ビットエラー発生割合の電源電圧依存性および、複数ビットエラーパターンの特徴について、ミュオンと中性子では明確に異なることが分かった。4粒子間の違いを捉えて明確にしたのは今回が初めてとなる。
特に、負ミュオン特有の捕獲反応により生じる複数ビットエラーは、高エネルギー中性子の核破砕反応や熱中性子の捕獲反応によって引き起こされるものとは異なる特徴があることを示した。この差は、それぞれの核反応によって生成される二次イオンの特性が異なることに由来したものだという。
今回の研究成果は、ミュオンを含めた環境放射線に対する効果的なソフトエラー対策技術の開発につながるとみている。
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