ペロブスカイト半導体中の「電子の重さ」を測定:太陽電池やLED応用に期待
千葉大学と北海道大学、京都大学の研究チームは、次世代太陽電池や発光デバイスの材料となる、ハロゲン化鉛ペロブスカイト中の「電子の重さ」を測定し、電子が周囲の格子に及ぼす影響を評価することに成功した。
電子が周囲の格子に及ぼす影響を正確に評価
千葉大学と北海道大学、京都大学の研究チームは2021年6月、次世代太陽電池や発光デバイスの材料となる、ハロゲン化鉛ペロブスカイト中の「電子の重さ」を測定し、電子が周囲の格子に及ぼす影響を評価することに成功した。ハロゲン化鉛ペロブスカイトが持つ、高い潜在能力が明確となったことで、太陽電池やLEDにおいてさらなる効率向上が期待される。
新しい半導体材料として注目されるハロゲン化鉛ペロブスカイトは、光を照射することで電子と正孔が形成され、太陽電池ではこれが起電力となる。ペロブスカイト半導体は、電子と正孔が再結合して消えるまでの時間が、従来の半導体に比べかなり長いのが特長だ。また、電子と正孔が再結合するときに発光する。発光効率が高いため光デバイスへの応用も期待されている。
一方、ハロゲン化鉛ペロブスカイトの課題は、電気伝導性が低いことである。これは「ポーラロン効果」によるものだといわれてきた。半導体中の電子は、イオンが作る結晶格子の中を動くが、ペロブスカイト半導体の格子は柔らかく、電子−格子相互作用によって格子がゆがむ。このため、電子が重さで沈んだようになり動きにくくなる。こうした状態の電子をポーラロンと呼んでいる。
研究チームは、ポーラロン効果を確認するため、半導体中の「電子の重さ」を測定することにした。このためには、磁気分光によりランダウ準位を測定する必要がある。しかし磁場が強いと、ポーラロン効果の影響を観測できないという。そこで今回は、サイクロトロン周波数がフォノン周波数よりも遅くなるような弱磁場でも、電子の重さを正確に測定できる高感度の検出システムを用意した。
実験では、ペロブスカイト半導体「CH3NH3PbX3」(X=I、Br、Cl)を用い、極低温環境で磁気反射を測定することによって、ランダウ準位を求めた。この結果、ランダウ準位のエネルギーは磁場によって変化することが分かった。この変化を基に、ポーラロンの質量と電子−格子相互作用の大きさを求めることができた。同時に励起子準位の測定も行い、高次励起子遷移がポーラロン効果の影響を受けていることも明らかにした。
これらの研究成果により、ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、ポーラロン効果により電子の質量が増大するものの、他の半導体と比べて極端な差はないことが分かった。
今回の研究成果は、千葉大学大学院理学研究院の山田泰裕准教授と音賢一教授、国際学術研究院の三野弘文准教授、北海道大学大学院工学研究院の鈴浦秀勝准教授および、京都大学化学研究所の金光義彦教授らによるものである。
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