大阪府立大学ら、GeTe固溶体化材料を開発:室温付近で熱電性能を最大2倍に
大阪府立大学らの研究チームは、室温付近で高い熱電特性を示す材料を開発したと発表した。開発した材料は、室温付近で既存材料に比べ最大2倍の熱電変換出力因子を示すという。
「バンド端縮重」を増やし、熱電変換出力因子が向上
大阪府立大学らの研究チームは2021年8月、室温付近で高い熱電特性を示す材料を開発したと発表した。開発した材料は、室温付近で既存材料に比べ最大2倍の熱電変換出力因子を示すという。
廃熱を利用した環境発電は、クリーンなエネルギー源として注目されている。ただ、廃熱の中で総量が最も多い室温廃熱を、効率よく電気に変換できる材料の開発はほとんど進んでいなかったという。
研究チームは今回、これまで高温域(250〜600℃)で高い性能を示すことが報告されてきたGeTe(テルル化ゲルマニウム)の電子構造を精密に制御し、室温付近(室温〜150℃)で熱電変換出力因子(ゼーベック係数の2乗と電気伝導率の積)を最大2倍に増大させることに成功した。
性能向上の要因も、実験と計算により突き止めた。GeTeをSb2Te3(テルル化アンチモン)と固溶体化させたことで、新しい価電子バンドのバンド端が極めて狭いエネルギー領域で縮重をする「バンド端縮重」が増え、室温域で熱電変換出力因子を向上させることが分かった。
左図は開発したGeTe固溶体化試料と従来GeTe系材料における熱電変換出力因子とその温度依存性。右図はGeTe固溶体化試料と従来GeTe系材料におけるバント端縮重の模式図 (クリックで拡大) 出典:大阪府立大学他
研究チームは、大型放射光施設「SPring-8」の粉末結晶構造解析ビームライン「BL02B2」を利用して、作製した試料の高精度粉末回折データを収集し、その結晶構造を調べた。このデータと、効率よく高精度に計算できるよう改良した計算コードを用い、試料の電子構造を計算した。
実験結果により、開発したGeTe固溶体化試料は、Bi2Te3(テルル化ビスマス)に比べ、室温付近で最大2倍の熱電変換出力因子になった。また、Bi2Te3と同様に、ナノ粒子を用いた微細組織の最適化などにより、熱電性能をさらに高めることも可能とみている。
今回の研究成果は、大阪府立大学大学院理学系研究科の小菅厚子准教授(JSTさきがけ研究者兼任)や奥友洋大学院生、久保田佳基教授と、近畿大学工業高等専門学校の舩島洋紀准教授および、高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員らによるものである。
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