データ伝送規格の進化を支えるPCIe:新たな要件や応用対応する(2/2 ページ)
PCIe(Peripheral Component Interconnect Express)バス規格には、たくさんの課題がある。より的確に言えば、PCIeを流れるたくさんのデータに対応する必要がある。
NVIDIA独自のインターコネクト
一方で、誰もがPCIeのオープンスタンダードなアプローチが唯一の選択肢であると考えているわけではない。NVIDIAは、独自のPCIe代替技術である「NVLink」を2014年に発表した。NVLinkはGPUインターコネクトで、GPU間および、GPU-CPU間を高速に接続する。
PCIeは普及している技術だが、AIやHPC(High Performance Computing)などのワークロード向けにNVIDIAが開発するサーバに導入するには、速度が足りないと、NVIDIAの製品管理担当シニアディレクターであるParesh Kharya氏は述べている。「コンピューティング能力に対するニーズは常に高まっている。コンピューティングをスケールアップする方法の一つは、多数のGPUを1つのシステムとして動作させることだ」(同氏)。NVLinkは、高速でスケーラブルなインターコネクトを提供することで、当社のGPUが巨大なアクセラレーターとして連携できるようにする。NVLinkが導入された当初は、PCIe 3.0の5倍の帯域幅を提供していたが、現在では、主流のPCIe 4.0の10倍近い600Gバイト/秒の双方向帯域幅を提供しているという。
NVLinkはNVIDIAの独自技術だが、同社のGPUはPCIeもサポートする。Kharya氏は、「これが現在のCPUとの接続方法だ」と述べる。IBMのような他のベンダーもNVIDIAと協力してNVLinkを自社のプロセッサに搭載しているが、多くの場合、NVLinkは、NVIDIAのGPUを使用したワークロードの高速化のために使用されている。NVIDIAは、幅広いエコシステムへの導入を促進すべく、NVLink機能を備えたサーバ用のベースボードやマザーボードを提供しており、高速な演算性能を誇るスーパーコンピュータ(スパコン)の中には、NVLinkを使用しているものもある。
一方、PCIeのアップデートは、CXLが勢いを増していく中で順調に進んでいる。RambusのフェローであるSteve Woo氏は、「CXLは、データがアーキテクチャの進化を促していることを示す一例であり、HBM(高帯域幅メモリ)やGDDRの規格は、データやこれらのアーキテクチャの重要性に対応して、驚異的なスピードで進化している」と述べる。
Woo氏は、メモリやコンピュートではなく、データの移動がボトルネックになり始めていると指摘する。かつては、グラフィックスの高解像度化やフレームレートの向上に伴い、グラフィックス市場がPCIeの高速化をけん引してきた。だが、それらのデータレートが増加するスピードは、現在のデータ量の増加スピードには遠く及ばないと同氏は述べる。データ量は2〜3年ごとに倍増しており、インターコネクトの性能もそれに追い付く必要がある。
期待される「PCIe 6.0」
それに対応するのがPCIe 6.0である。PCIeのI/Oバス仕様と関連フォームファクターを定義しているPCI-SIG(PCI Express Special Interest Group)は2021年5月に開催したウェビナーで、PCIe 6.0は、PCIe 2.0からPCIe 3.0に移行して以来、最も大きな飛躍を遂げたと説明した。今回のアップデートでは、データ転送レートが2倍になり、前バージョンよりも高いシグナリングレートとより厳しいシグナルインテグリティ要件を実現する。同年7月にはPCIe 6.0 Draft 0.71がメンバーレビュー用に公開された。それに続くDraft 0.9は、最終的な問題点がないか2カ月間のレビューを受けることになっている。
PCIe 6.0にはPAM4が導入されて、シリアルチャネルの同じ時間に、より多くのビットを詰め込むことができる。低遅延のFEC(前方誤り訂正)に加え、帯域幅の効率化と信頼性の向上に向けたメカニズムも追加されている。また、TLP(Transaction Layer Packet)全体の暗号化と認証保護のためにAES-GCMを適用することで、TLPのIDE(Integrity and Data Encryption)を実現している。PCIe 6.0 ×16で800GbE(ギガビットイーサネット)をサポートすることが可能だ。
PCI-SIGのプレジデント兼ボードチェアを務めるAl Yanes氏は、PCI-SIGのメンバーは世界中で約900に達し、まさに“開花”しているところだと述べる。モバイルだけでなく自動車業界からも多くの関心が寄せられており、あらゆる機器に焦点を当てているという。「われわれはワークグループを結成し、多くの参加者を得ることができた。それが、新しいターゲット分野へとつながっている」(Yanes氏)
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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