浜松ホトニクス、指先サイズの波長掃引QCLを開発:従来製品に比べ大きさ約1/150
浜松ホトニクスは、指先サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(QCL)を開発した。従来製品の約150分の1という小ささである。産業技術総合研究所(産総研)が開発した駆動システムと組み合わせ、火山ガスの成分などをリアルタイムに観測できる可搬型分析装置の実現を目指す。
可搬型の火山ガスモニタリングシステムを可能に
浜松ホトニクスは2021年8月、指先サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(QCL)を開発したと発表した。従来製品の約150分の1という小ささである。産業技術総合研究所(産総研)が開発した駆動システムと組み合わせ、火山ガスの成分などをリアルタイムに観測できる可搬型分析装置の実現を目指す。
火山の噴火を予知する方法としては、火山ガスに含まれる二酸化硫黄(SO2)や硫化水素(H2S)などの濃度変化を実時間で収集し、分析するのが一般的である。このため火口付近に「電気化学式センサーを用いた分析装置」を設置している。ただ、火山ガスと接するため電極の寿命が短く、性能も劣化しやすいことから、定期的に部品交換が必要となっていた。
これに対し、寿命が長い光源や光検出器を用いる「全光学式の分析装置」は、メンテナンスの手間を軽減でき、高い感度で長期にわたって安定した成分分析が可能という特長がある。ところが、これまでは光源のサイズが大きく装置全体も大型となり、火口付近への設置が難しかったという。
こうした中で浜松ホトニクスと産総研は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」の中で、「次世代火山ガスモニタリングシステム」の実現に向けた研究開発を、2020年より行ってきた。
ここで浜松ホトニクスが取り組んだのは、分析装置向け光源の小型化である。そして今回、中赤外光の波長を7〜8μmの範囲で高速に変化させて出力する、世界最小サイズの波長掃引QCLを開発した。
特に、QCLの体積として大部分を占めるMEMS回析格子の形状を従来比約10分の1とした。さらに、小型磁石の採用や配置の工夫、高精度な組み立て技術などにより、波長掃引QCLのサイズを13×30×13mmにした。これは従来品に比べ約150分の1の大きさである。これとは別に、7〜8μmの範囲から特定の波長を選択して出力できる波長可変型QCLも開発した。
開発した波長掃引QCLは、産総研センシングシステム研究センターが開発した駆動システムと組み合わせて用いる。これによって、20ミリ秒以下で中赤外光の連続スペクトルを取得することができ、高速に変化する現象を分析することが可能になるという。
浜松ホトニクスと産総研およびNEDOは今後、新たに開発した波長掃引QCL搭載の火山ガスモニタリングシステムを用い、多点観測などの実証実験を行う計画である。また、浜松ホトニクスは、波長掃引QCLと駆動回路および、光検出器を組み合わせたモジュール製品を開発し、2022年度内にも発売する予定。
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