MTJ素子の障壁材料に二次元物質を利用、1000%のTMR比を確認:界面垂直磁気異方性の誘起も予測
東北大学はケンブリッジ大学と共同で、強磁性トンネル接合(MTJ)素子の障壁材料に、二次元物質の六方晶窒化ホウ素(h-BN)を用いると、界面垂直磁気異方性が強化されることを発見した。また、極めて高いTMR(トンネル磁気抵抗)比が現れることも明らかにした。
1000%のTMR比が現れることも予測
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターは2021年8月、強磁性トンネル接合(MTJ)素子の障壁材料に、二次元物質の六方晶窒化ホウ素(h-BN)を用いると、界面垂直磁気異方性が強化されることを発見したと発表した。また、極めて高いTMR(トンネル磁気抵抗)比が現れることも明らかにした。ケンブリッジ大学との共同研究による成果である。
研究グループはこれまで、CoFeB/MgO/CoFeBのΔ1コヒーレントトンネリングと界面垂直磁気異方を利用したMTJ構造により、1Xnm世代に適合する不揮発性磁気メモリの開発に成功している。
不揮発性磁気メモリに用いられる垂直磁化型MTJ素子には、高いデータ保持特性のために高い界面磁気異方性が、読み出し信号および高効率のスピン移行トルクのために高いTMR比が必要だ。
今回は、面内伝導において移動度が高い二次元材料に着目。h-BNを用いて、TMR効果と界面垂直磁気異方性を、第一原理計算により予測した。具体的には、Coを強磁性金属、h-BNをトンネル障壁材料としたCo/h-BNを基本構造として、いくつかのCoとNの相対的な原子位置関係におけるスピン分極バンド構造やTMR比、界面垂直磁気異方性などを調べた。また、h-BNトンネル障壁材料の性能を理解するために、MgOトンネル障壁との比較検討も行った。
この結果、Coの最上部層とh-BN層が物理吸着すると想定すれば、原子間距離が比較的長い場合にTMR比は最も高くなり、理論的に1000%のTMR比を得られることが分かった。相対的な原子位置関係がTMR比に大きく影響することも明らかになったとする。つまり、高度な結晶成長技術によって原子位置関係を制御できれば、高いTMR比を得られるという。
混成軌道により界面垂直磁気異方性が誘起される
研究グループは、Coとh-BNの界面構造を作製するときに、3種類の原子位置関係を設定し、その界面垂直磁気異方性について調べた。CoをNの直上に配置すると、FeまたはCo上のh-BNは、混成軌道によって界面垂直磁気異方性が誘起されることが分かった。この混成軌道では、Co層のdz2軌道とNpz軌道の間の軌道が混成して、空のダウンスピンCodz2状態が上方にシフト。表面層が満たされたNpz状態を安定化させることで、界面垂直磁気異方性が誘起されるという。
このように、h-BNは1000%のTMR比とともに、界面垂直磁気異方性が誘起されることが分かった。二次元材料は高い面内移動度を利用したトランジスタ応用が検討されていて、今回の研究は、二次元デバイスの発展に貢献するとしている。
一方で今後の課題として、半導体の後製造工程(back end of line: BEOL)の製造ラインに適合させるために400℃の温度で高品質なh-BNを形成する必要があることを挙げた。高温時はBが金属層に拡散する懸念もあり、低温化は必須だとする。そのためには、低温合成ができるALD(atomic layer deposition)法でh-BNを作製する技術を確立する必要がある。これについては、米Applied Materialsが量産機向けにALD法とスパッタ法を組み合わせた装置を開発しているという。
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