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「ムーアの法則」は終わらない 〜そこに“人間の欲望”がある限り湯之上隆のナノフォーカス(41)(6/6 ページ)

「半導体の微細化はもう限界ではないか?」と言われ始めて久しい。だが、相変わらず微細化は続いており、専門家たちの予測を超えて、加速している気配すらある。筆者は「ムーアの法則」も微細化も終わらないと考えている。なぜか――。それは、“人間の欲望”が、ムーアの法則を推し進める原動力となっているからだ。【修正あり】

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例え微細化が止まってもムーアの法則は終わらない

 以上のような事を説明しても、「微細化が原子レベルになったらさすがにスケーリングは止まるだろう」という反論を受けることが多い。しかしそれでも尚、筆者は、「微細化が原子レベルになって止まったとしても、ムーアの法則は続く」と言い続けている。

 Before Coronaの最後の年となった2019年6月9日〜14日、京都リーガロイヤルホテルで、VLSIシンポジウムがリアルに開催された

 そのVLSI2019では、筆者の提案によりSunday Workshopが初めて行われた。その中のAtomic Layer Processing(ALP)のセッションで、Robert D. Clark氏(Tokyo Electron Technology Center)による“Selective and Self-Limited Thin Film Processes for the Atomic Scale Era”の発表に筆者は注目した。

 Sunday Workshopでは配布資料は一切ない。しかし、Robert D. Clark氏の発表に感銘を受けたので、「EE Times Japanに取り上げたいから発表スライドを頂けないか?」とお願いし、快諾して頂いた。そのスライドの1枚を図14に示す。


図14:縦軸を計算速度とするとムーアの法則は120年続いている 出典:R. Clark, TEL.” Selective and Self-Limited Thin Film Processes for the Atomic Scale Era”, Sunday Workshop1, VLSI2019(クリックで拡大)

 Intelの創業者の一人であるGordon E. Moore氏が唱えた「ムーアの法則」は、トランジスタの集積度が2年で2倍になると解釈されている。しかし、縦軸をトランジスタの集積度ではなく、計算機の速度にすれば、「ムーアの法則は1900年から現在に至るまで120年続いている」ということを、Robert D. Clark氏は図14で説明した。

 なるほど!

 筆者は膝を打った。もう既に、TSMCの言うところの7nm、5nm、3nmというテクノロジーノードは、商品名にすぎず、その寸法はチップのどこを探しても見当たらない。その代わり、世代が進むと、消費電力が下がり、高速になるなどパフォーマンスが向上し、トランジスタサイズ(またはフットプリント)が縮小されてチップサイズが小さくなる。つまり、Power、Performance、Area(PPA)が向上する。

 だから、例え微細化が止まろうとも、PPAのどれかが前進していれば、ムーアの法則が終わりを迎えたことにはならないのである。

総括

 では、この長い話をまとめよう。まず、少なくとも2030年までは微細化は止まらない。これは、2007年のときにTSMCのDirectorの1人が予測していた「hp10nmが限界」とほぼ同レベルである。また、リソ屋は常に悲観的であるため、彼らの言うことはあまり信用できない。その証拠に、「絶対量産機は無理」といっていたEUVを使った半導体の製造が実現している。

 さらに、現在TSMCが狂ったように微細化を進め、それによってムーアの法則が続く原動力は、“人間の欲望”に他ならない。従って、人間が欲望を持ち続ける限り、当分の間、微細化が止まることは無いだろう。

 そして、仮に微細化が原子レベルになって止まったとしても、トランジスタの集積度以外のパラメータ(例えば計算機の速度)を縦軸にすれば、ムーアの法則は、人類が滅亡するまで続くかもしれない。となると、半導体の微細化とムーアの法則を続けるための最大の課題は、

デルタ株にまで変異したコロナに打ち勝つこと

になる。読者の皆さん、外出を自粛し、できる限りリモートワークに切り替え、可及的速やかにワクチンを接種しましょう(筆者は8月19日に1回目を接種しましたが、その後数日間は副反応で使い物になりませんでした……)。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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