XanaduとImec、フォトニック量子プロセッサを共同開発へ:超低損失の窒化ケイ素導波路を利用
フォトニック量子コンピューティングを専門とするXanaduは、超低損失の窒化ケイ素導波路をベースとした次世代フォトニック量子ビットの開発に向けて、ベルギーの研究開発センターであるImecと提携すると発表した。
フォトニック量子コンピューティングを専門とするXanaduは、超低損失の窒化ケイ素(SiN)導波路をベースとした次世代フォトニック量子ビットの開発に向けて、ベルギーの研究開発センターであるImecと提携すると発表した。
カナダのトロントを拠点とするXanaduは、量子コンピュータに光粒子を使用して、これまでは不可能だとされていた室温での計算を超高速に行う技術を開発するために2016年に設立された。同社の創設者でCEO(最高経営責任者)を務めるChristian Weedbrook氏は、フォトニクスアプローチのメリットとして、既存のファウンドリや市販の光学部品を活用できることを挙げている。さらに、フォトニックチップを連携させることで、量子コンピュータを最大100万量子ビットまで拡張できるというメリットもあるという。
Xanaduの量子マシンは、スクイーズド状態をベースとしたフォトニック量子ビットを利用している。この場合のスクイーズド状態とは、チップに実装されたシリコンフォトニックデバイスで生成される特殊な光である。光粒子は、他のアプローチで使用される電子やイオンではなく、フォトニックチップを介して情報を伝送するために使用される。Xanaduは、「当社のフォトニックアプローチには、光ネットワークによる100万量子ビットへの拡張性や、室温での計算、Imecの既存のプロセス技術を活用できるといったメリットがある」と述べている。
Xanaduのハードウェアチームを率いるZachary Vernon氏は、「フォトニック量子コンピュータを構築する上で最も重要な課題の1つは、最先端のプロセス開発と高性能なフォトニックチップの量産を同時に提供できる適切な製造パートナーを見つけることだ。Imecは、最先端の200mmおよび300mmラインでの先端技術の研究開発とともに、200mmラインでの量産を行っている数少ない半導体研究開発センターの1つだ」と述べ、Imecと提携することのメリットを強調した。
同氏は、「つまり、Imecの生産能力を活用すれば、超低損失のフォトニックプラットフォームを含むいくつかのプラットフォームで、顧客1社あたり年間最大1000枚のウェハーを製造できる。Imecが提供する新プロセスの生産へのシームレスな移行は、当社の技術の迅速なスケールアップに特に重要である」と述べている。
Weedbrook氏はさらに、「Imecとの提携によって、フォールトトレランスとエラー修正可能な量子ビットをベースとした適切な基盤の構築が可能になる」と付け加えた。
スクイーズド状態
フォトニック量子コンピューティングの競合プラットフォームは、従来、シリコン導波路で作製した単一の光子源に依存してきた。これらのプラットフォームは、非決定論的な操作に対応できない。窒化ケイ素を使用すると、量子ビットを合成するための基本的な光子源として単一光子に代わる、スクイーズド状態を生成できる。スクイーズド状態は決定論的に生成され、GKP(Gottesman-Kitaev-Preskill)状態と呼ばれるエラー耐性のある量子ビットの生成に利用できる。
同アプローチは、Xanaduのアーキテクチャで多重化して実装すると、フォールトトレラントな量子コンピューティングへのより有望な道筋を提供するといわれている。Imecの事業開発マネジャー、Amin Abbasi氏は、当初は通信用に開発された同センターの窒化ケイ素フォトニクスプラットフォームが、「量子コンピューティングのような他の高度なアプリケーションへの道を見いだしつつある」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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