一般的な5Gスマホで、衛星との直接接続を実現へ:衛星業界に巨大市場が追加(2/2 ページ)
もう、『圏外だ』という言い訳はできなくなりそうだ。「5G NR(New Radio)」規格の最新のアップデートによって、互換性のあるデバイスは世界中どこにいても5G(第5世代移動通信)対応の衛星で接続できるようになる。接続には、従来のような専用の携帯電話機も必要ない。
5Gの直接接続は「かなり高コスト」
米調査会社ABI Researchのリサーチディレクタを務めるDimitris Mavrakis氏は、「衛星5Gは、非常に興味深いコンセプトであるが、実現するには多大な努力を要するだろう」と警告する。
5G直接接続は、かなり高コストになるためだ。
既存の専用衛星電話機プランは、特に音声通信と基本的なテキストメッセージだけをサポートする契約の場合、非常に高額である。Iridiumが2021年向けに発表しているプランでは、1カ月当たり衛星電話機を10分間使用できるプランが54.99米ドルから始まり、最も高いものでは、1カ月当たり1000分間使用できる1年契約が929.99米ドルだという。
5G対応電話機で衛星に接続することが可能な“1Dayパス”が利用できるようになれば、価格が下がるというわけではない。ただそうしたパスは、年1回しか使わないかもしれない専用衛星電話機の月額/年間プランよりも安くなる可能性がある。
Palerm氏は米国EE Timesのインタビューの中で、「通常のモバイルサービスと比べると、確実に高額になるはずだ」と述べている。
今のところまだ、5G対応パスの価格がどの程度まで高くなるのか、正確には分からない。市場のどの主要プレーヤーも、その件について正式な発表を行っていないからだ。
世界を網羅するIoT
Palerm氏は、「5Gスマートフォンユーザーの他にも、衛星直接接続をけん引する重要な要素の1つとして、IoT市場が挙げられる。3GPPは、NB-IoT(狭帯域IoT)エアインタフェースを衛星経由で実装する研究を行っている。またInmarsatとMediaTekは、既に軌道上で試験を行ったという」と述べている。
また同氏は、「衛星に直接接続するさまざまなIoTアプリケーションの種類に関しては、確実にリモート関連のユースケースが存在する。想定される初期ユーザーとして、農業やエネルギー、運輸などの分野が挙げられる。エンドユーザーと、IoTアプリケーションを導入している企業の両方にとって、衛星直接接続の最大の目玉となるのは、セルラーアクセスなしに実現することは不可能であるという分野に、セルラーアクセスを導入することができるという点ではないか」と述べる。
地球は、地表全体の70%以上が海で覆われている惑星であり、セルラーネットワークは世界人口全体の85%をカバーするにとどまっていることから、直接衛星接続が実現すれば、リモートワークや人命救助を完璧に実行できるようになるといえるだろう。
LEO衛星を巡る野望
この他にも、一般的な携帯電話機向けにLEO衛星通信を提供することを目指す動きがある。その証拠として、SpaceXなどの企業がますます興味を示しているということや、現在地球軌道上を周回している数百基もの新しいLEO小型衛星の性能が向上しているといった点が挙げられる。Sierra Wirelessのチーフサイエンティスト、Gus Vos氏は、米国EE Timesの取材に対し、「この小さな低軌道ネットワークの空間全体に、大きな興奮と関心があると考えている」と述べている。
新興企業のLynk Global社は、2020年3月18日、SpaceXのロケットで打ち上げられたLEO超小型衛星、いわゆる「宇宙のセルタワー」の1つに一般的な携帯電話を接続し、フォークランド諸島の上空からテキストメッセージを送信したことを明らかにした。同社は、独立した観測者が現場にいる状態で、このテストを複数回繰り返したという。
同社は、2022年に小型衛星コンステレーションを打ち上げて、携帯電話への直接接続サービスを開始するためのライセンス申請をFCC(連邦通信委員会)に行っている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- オーロラ観測用紫外線カメラ搭載の衛星を打ち上げ
エイブリックと東京工業大学は、共同開発したオーロラ観測用紫外線カメラ「UVCAM」が、可変形状実証衛星「ひばり」に搭載され、イプシロンロケット5号機で、10月1日に打ち上げられると発表した。 - 衛星と組み合わせる“ハイブリッド5G”、開発に着手
米国の航空宇宙大手Lockheed Martinと米国バージニア州北部に拠点を置く通信プロバイダーであるOmnispaceは、世界を網羅する衛星ベースの5G(第5世代移動通信)ネットワークの共同開発に向けて検討を進めている。 - 衛星/5G向けのKa帯GaN-on-SiC MMICパワーアンプ
現代の衛星システムは、地球表面を幅広くカバーし高速なブロードバンドデータ伝送を提供する静止衛星コンステレーションをベースとしている。Microchip Technologyが2021年6月に発表した新しいMMIC(モノリシックマイクロ波集積回路)パワーアンプ「GMICP2731-10」は、Kaバンド(27.5G〜31GHz)と高RF出力、GaN-on-SiC技術を活用することで衛星通信の厳しい性能要件に対応することができる。 - ソフトバンク、3本柱の衛星戦略でグローバル展開へ
ソフトバンクがその将来の一部を賭けているのは、日本という国内市場をはるかに超えて顧客の役に立てるような、宇宙から提供されるサービスである。 - 5G対応ミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発へ
東京工業大学らの研究チームは、小型衛星に搭載できる5G対応のミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発していく。2022年度に打ち上げが予定されている小型衛星への搭載を目指す。この技術により、小型衛星による衛星コンステレーションを活用したインターネット網の構築などが可能となる。 - 静止軌道衛星との5G IoTデータ接続試験に成功
MediaTekによれば、インマルサットの静止軌道衛星とフチノ宇宙センター(イタリア)の基地局間で5G IoTデータ接続試験を行い、データを転送するフィールドトライアルに成功した。この通信テストには、MediaTek製のSoCが用いられた。