クラウドベースの車載ソフト開発を加速する「SOAFEE」:Armの新しい取り組み(4/4 ページ)
Armは2021年9月15日(現地時間)、ソフトウェアフレームワークプロジェクト「SOAFEE(Scalable Open Architecture For Embedded Edge)」を発表した。この取り組みには他の企業も参加しており、今後もさらに多くの企業が参加する予定だという。Armは、SOAFEEを「リアルタイムに動作し、安全性に配慮したオープンなソフトウェアアーキテクチャおよびリファレンスソフトウェア実装」と定義している。
SOAFEEの競合は
ArmのSOAFEE戦略は成功するとみられるが、そこにはまだ競争の余地がある。
多くのメーカーが、クラウドプラットフォームを活用して車載ソフトウェアを開発している。これらの参入企業は、エコシステムが予想通りに成長を遂げていけば、今後徐々にSOAFEEへの移行を進めていくとみられるため、直接の競合相手にはならないだろう。
競合の可能性があるのは、プロセッサのプラットフォームを手掛ける大手メーカーだ。その中でも注目すべきは、Intelである。NVIDIAは、Arm買収をうまく進められていないが、SOAFEEを利用することはできる。筆者がこれまでPC業界で培ってきた経験から見ると、「SOAFEEと競争するには、ほんの短い間だが絶好のチャンスがある」といえるだろう。
その理由は、Armのプロセッサが、あらゆるECU分野において優位性を確立しているからだ。大手自動車メーカーやティア1サプライヤーの他、Armとの互換性を備えたシステム/ソフトウェアを手掛ける大手半導体メーカーなどがSOAFEEの使用を開始すれば、戦いで勝利を収められるだろう。これが今後2年ほどの間に実際に起こり、SOAFEEはデファクトスタンダード(事実上の標準)になるとみられる。
最終的な結論は
車載ソフトウェア業界では既に、新しいアプリケーションやシステムソフトウェアの開発において、クラウドソフトウェアプラットフォームへの移行を進めている。SOAFEEは、IT/クラウドアプリケーションで使われる機能を追加することはできるが、自動車開発に必要とされる特定の機能を備えた用途向けのものに限られる。
SOAFEEは、クラウド開発向けにリアルタイム動作と安全機能を追加する他、ECUに導入されている組み込みソフトウェアプラットフォーム向けに、自動車の製品寿命全体にわたって同等の機能を提供するとみられる。
Armは、「SOAFEEは、クラウドネイティブな車載ソフトウェア開発におけるデファクトスタンダードになるだろう」と位置付けているようだ。
SOAFEEは少なくとも今のところ、Armに新たな収益を生み出すまでには至っていない。しかし、プロセッサの競合メーカーにとっては、自動車市場への参入障壁を高くする存在だといえる。現にその障壁は、既にかなり高くなっている。
筆者としては、Armの戦略は成功を収めると確信しているが、「SOAFEEは今後、車載ソフトウェア事業やサプライチェーンなどのさまざまな部分にどのような影響を及ぼすのか」という点については、まだ多くの疑問が残る。
【翻訳:田中留美、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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