TSMCの日本工場設立、利益を危険にさらす可能性も:24年5月の生産開始を予定(2/2 ページ)
TSMCは2021年10月、日本に初の半導体工場を建設する予定であると発表した。これは、世界最大規模の半導体ファウンドリーである同社が、台湾以外で生産能力を拡大していく上で、コスト増大の問題に直面するであろうことを示す兆候の1つだといえる。
ウエハー価格の上昇
TSMCは2021年7月に、「ウエハー価格の安定化を目指す」と宣言していたが、現在では、AppleからXilinxに至るまで、幅広い顧客企業に対する値上げについて言及するようになった。
Wei氏は、「価格決定に関しては、TSMCと顧客企業との間だけで個々に話し合いを進めている」と述べる。
Bryson氏は、「ウエハー価格は2022年にかけて上昇するだろう。報道記事全体の10〜20%は正しい情報だと思うが、値上げの実施に関しては、各顧客との間の既存契約の条件やタイミングなどによって決定されるだろう」と述べている。
TSMCは、「われわれのウエハー価格戦略は、日和見主義的にではなく戦略的に展開している」と繰り返し主張している。将来的に生産能力拡大の波によって価格が大幅な上昇をすることを見越してのことだという。
TSMCは今のところ、利益率に関しては、これまで通常公表していた50%台を上回るとの見通しを明らかにしている。
米国の投資管理会社Neuberger Bermanでシニア投資アナリストを務めるSebastian Hou氏は、「TSMCが高い利益率の実現について語っているのは、顧客企業が高い価格に対する支払いをいとわないということを示す有力な証拠だといえる。多くの顧客企業が、半導体の供給を確保しようと、TSMCに対していわゆる”前払い”をしているようだ」と述べる。
以前は、このような契約に合意する顧客企業はほんの数社にとどまっていた。TSMCは、「高まる需要に対応しながら顧客へのコミットメントを確実に実現すべく、より多くの顧客が前払いシステムに参加するようになった」としている。
一方、TSMCが間もなく導入を予定している3nmプロセス技術「N3」などの最先端ノードでは、製造コストが上昇の一途にある。
Wei氏によると、既存の「N5」ノードよりもさらにコストが増加する見込みだという。
「コスト上昇の理由は、技術的な複雑性が高まるためだ。また、さまざまな種類の新型装置を使用する必要があり、こうした装置の価格も高い」(Wei氏)
TSMCはこれまで、そのコスト上昇分を顧客企業に転嫁してきた。
Credit SuisseのマネージングディレクターであるRandy Abrams氏は、2021年10月15日付の調査レポートで、「TSMCは、価格の上昇に加えて、ノード移行や構造的な要因による平均販売価格の上昇により、循環的な不安が続いても業績を伸ばすことができると期待している」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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