日本金属ら、ZA系新マグネシウム合金圧延材を開発:優れた室温成形性と強度、熱伝導率
日本金属は、産業技術総合研究所(産総研)や不二ライトメタルと共同で、「ZA系新マグネシウム合金圧延材」を開発した。この材料は、室温成形性に優れ、実用的な強度と高い熱伝導率を実現している。
Mg-Zn系合金に特定元素を微量添加して、結晶の配向を制御
日本金属は2021年10月、産業技術総合研究所(産総研)や不二ライトメタルと共同で、「ZA系新マグネシウム合金圧延材」を開発したと発表。この材料は、室温成形性に優れ、実用的な強度と高い熱伝導率を実現している。
最軽量金属材料であるマグネシウム合金は、高い強度と剛性を有しており、リサイクル性に優れた材料として注目されている。日本金属は既に、マグネシウム合金圧延材を製造しているが、「材料と金型を200℃以上に加熱した温間プレス成形が必要」「アルミ合金ダイカスト材と比較して熱伝導率が低い」といった課題があった。この原因は六角柱のような構造をした結晶組織の配向(並び方)と、合金添加元素の種類および、量に起因することが分かっていた。
そこで今回、結晶の配向を抑制し、マグネシウム合金板材の室温成形性を高める研究を共同で行った。具体的には、日本金属が合金設計含む圧延技術の開発を、産総研が合金設計開発(試験片レベル)を、不二ライトメタルが合金設計を含む鋳造・押出し技術の開発を、それぞれ担当した。
新たに開発したZA系新マグネシウム合金圧延材は、Mg-Zn系合金にカルシウムなど特定元素を微量に添加して、結晶の配向を制御した。また、合金成分を適切に調整することで、実用的な強度と耐食性を実現した。ZA系新合金圧延材は結晶組織の配向が、六角柱の鉛筆の束を板幅(TD)方向に35°傾けたような配向となっており、一般的なマグネシウム合金圧延材とは大きく異なるという。
研究グループは、ZA系新合金圧延材の室温成形性を検証するため、室温エリクセン試験を行った。この結果、自動車外板パネルに用いられているアルミ合金と同等のエリクセン値(8.6mm)を示すことが分かった。また、微細な結晶が得られるように圧延条件を最適化したところ、輸送機器外板にも適用できる実用的な強度が得られた。
プレス成形性を確認するため、既存のプレス金型を用い室温深絞り成形を行った。絞り深さに限界はあるが、角形状の異なる実部品に近い形状を、室温プレスで成形できることを確認した。
さらに、ZA系新合金圧延材の熱伝導特性についても確認した。熱伝導率は131W/m・Kを示し、AZ91Dマグネシウムダイカスト材の約3倍、ADC12アルミダイカスト材の約1.5倍となった。ZA系新合金圧延材の制振性も調べたところ、ヘッドフォンなどに用いられているAZ31Bマグネシウム合金よりも優れていることが分かった。
日本金属は、ZA系新合金圧延材について量産サイズのコイルで試作を完了、量産体制の早期確立を目指している。軽量化や熱対策が必要な輸送機器(電動車、自動運転車、空飛ぶ車など)やモバイルIT機器などの用途に向けて実用化を急ぐ。
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