産総研ら、超伝導体でスピン配列の制御を実現:超伝導メモリなどへの応用に期待
産業技術総合研究所(産総研)と総合科学研究機構(CROSS)、ウィーン工科大学、イムラ・ジャパンは、鉄系磁性高温超伝導体「EuRbFe▽▽4▽▽As▽▽4▽▽」の超伝導とユーロピウム(Eu)の磁性が共存する状態において、磁束量子の向きと配置を操作することで、スピン配列の制御に成功した。
磁束量子の向きがスピンの向きを決める現象を発見
産業技術総合研究所(産総研)と総合科学研究機構(CROSS)、ウィーン工科大学、イムラ・ジャパンは2021年9月、鉄系磁性高温超伝導体「EuRbFe4As4」の超伝導とユーロピウム(Eu)の磁性が共存する状態において、磁束量子の向きと配置を操作することで、スピン配列の制御に成功したと発表した。超伝導メモリなどに応用できる可能性があるという。
一般的に「超伝導」と「磁性」は相容れない関係にあるという。こうした中で、産総研とイムラ・ジャパンは、2016年にEuRbFe4As4を発見した。臨界温度(Tc)が37Kと高く、15K以下でEuの磁性が共存するという、極めて珍しい物質である。この応用可能性を探るため、EuRbFe4As4の超伝導と磁性の共存状態における物性を詳細に調べた。
EuRbFe4As4は、超伝導を担う「鉄ヒ素(FeAs)層」と、磁性を担う「Eu層」が積層された結晶構造となっている。各Eu層はスピンの向きがそろった強磁性配列で、スピンの向きが90度ずつ回転しながら積層するらせん状の構造である。
このようならせん磁性は、比較的超伝導と共存しやすいといわれている。ただ、外部磁場を加えると、Euのスピンはらせん磁性から強磁性へと再配列し、外部磁場をゼロに戻せば元のらせん磁性に再配列するとみられていた。
そこで研究グループは、EuRbFe4As4単結晶試料を作製。大強度陽子加速器施設(J-PARC)や物質・生命科学実験施設(MLF)の特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置(SENJU)を用いて、磁場中の中性子磁気回折実験を行った。
この結果、EuRbFe4As4は、強い磁場を加えた後に磁場をゼロに戻しても、試料中の大部分のスピンが強磁性配列のままであることが分かった。これは外部磁場をゼロにしても、試料内に捕捉された磁束量子によって、スピンが強磁性配列していることを示したものだという。
産総研とウィーン工科大学は、今回の研究成果から、磁束量子を用いてスピンの向きを制御できると考えた。例えば、下向きの磁場を加えた後に上向きの磁場を印加すると、超伝導体内の中央部と端部で反対向きの磁束量子を生成できる。スピンの向きは磁束量子の向きで決まる。上向き(下向き)の磁束量子が分布する領域では、スピンが上向き(下向き)の強磁性配列となる。境界領域は磁束量子がないため元のらせん磁性となる。各領域の幅と位置は、外部磁場の印加プロセスと強さによって決まるという。
こうした状態は、外部磁場をゼロにしても保たれるため、任意のスピン配列を有する超伝導体を実現することができる。さらに、上向きの外部磁場を強くすれば、上向き磁束量子の領域が広がり、下向き磁束量子の領域が狭くなるなど、スピン配列の制御を可能にした。
研究グループは、EuRbFe4As4の磁化について、外部磁場を変化させたときの依存性を調べた。この結果、モデルを用いた計算と実験結果がほぼ一致した。これは、磁性超伝導体内のスピン配列が、磁束量子の向きと配置によって決まることを示したものだという。
研究グループは今後、発見した現象のメカニズム解明に向け、より詳細な実験を実施するとともに、理論の構築を行う。また、超伝導デバイスに応用するため、磁束量子の向きと位置の精密制御といった要素技術の開発に取り組む予定だ。
今回の研究成果は、産総研電子光基礎技術研究部門超伝導エレクトロニクスグループの石田茂之主任研究員や荻野拓主任研究員、伊豫彰上級主任研究員、永崎洋首席研究員および、CROSS、ウィーン工科大学、イムラ・ジャパンによるものである。
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