「光技術×エッジAI」、OKIが目指す社会インフラ:光ファイバーでセンシング
OKI(沖電気工業)は2021年10月19日、オンライン記者説明会を開催。同社ソリューションシステム事業本部 エグゼクティブスペシャリストを務める佐々木玲氏が、光関連の技術と取り組みを説明した。
OKI(沖電気工業)は2021年10月19日、オンライン記者説明会を開催。同社ソリューションシステム事業本部 エグゼクティブスペシャリストを務める佐々木玲氏が、光関連の技術と取り組みを説明した。
光技術を活用するエッジAI
OKIは、2020〜2022年度の3カ年の中期経営計画である「中期経営計画2022」で、「AI(人工知能)エッジ技術」を軸に営業利益目標200億円を設定しているが、AIエッジ技術の中核となるのが光技術だと佐々木氏は語る。5G(第5世代移動通信)/Beyond 5Gに向けた光ネットワークと、DX(デジタルトランスフォーメーション)およびスマート社会に向けた光センサーに焦点を当て、「さまざまなユースケースを想定してソリューション展開への取り組みを進めている」(同氏)
OKIはもともと、基幹ネットワーク向けの光伝送装置を手掛けてきた。佐々木氏は「通信の高度化に伴い、光伝送装置の販売終了がある程度見えてきた段階で、緩やかに注力分野のシフトを進めてきた。その大きな流れが光ネットワークと光センサーである」と説明する。
特徴的なのが光センサーだ。OKIの光センサーは、光ファイバーそのものをセンサーとして活用する。光ファイバーに信号を入力すると反射光(散乱光)が発生する。この反射光の変化を捉えて、温度やひずみ、振動などを計測する仕組みだ。「現時点で社会インフラでの(光ファイバーの)普及率はそれほど高くはないが、各種モニタリング技術との親和性が非常に高く、1本の光ファイバーで温度、ひずみ、振動、音響などさまざまな物理変化を広く検出できる。そのため、今後のスマート社会で普及拡大する可能性のある、期待が大きい技術だ」(佐々木氏)
光ファイバーをセンサーを使うメリットとしては、径が細く軽いので施工しやすい、電気部品を含まないので故障率が低くメンテナンスフリーで長期間使用できる、電源供給が不要で落雷などの影響を受けずに測定できる、などが挙げられる。通常、IoT(モノとインターネット)というと、各種センサーを多数配置して、データロガーでデータを収集するという手法が思い浮かぶが、佐々木氏は、「点ではなく、(光ファイバーに沿った)“面”でモニタリングするイメージ」だと説明する。
OKIの光センサーには、独自の「SDH-BOTDR(自己遅延ヘテロダインブリルアン時間領域反射法)」方式が使われている。従来のBOTDR(ブリルアン光時間領域反射測定法)では、散乱光の周波数変位を利用するので、温度やひずみを測定する際、周波数解析などの膨大な計算処理が必要になり、1回の測定に時間がかかるという課題があった。OKIのSDH-BOTDRは、周波数変位ではなく電気信号の位相シフトを利用するアルゴリズムを採用しているので測定時間がかからず、広い測定範囲で温度、ひずみのリアルタイムセンシングが可能だという。
佐々木氏は光ファイバーセンシングの市場規模については「具体的な数字はまだ算出できていないが、2025〜2030年にかけてかなりの規模になると予想している」と述べた。
光ファイバーの敷設が課題に
OKIは「交通」「建設/インフラ」「防災」「金融/流通」「製造」「海洋」の6つの分野をターゲットに、AIエッジソリューションを展開する。「既にさまざまなシーンでの実証と、活用の検討が進んでいるが、具体的な導入に向けては、センサーの性能以外に各種インフラへの光ファイバーの敷設、つまり実装方法が重要な課題となっている。実装については、強力なパートナー各社と連携して取り組みを進めており、光ファイバーの社会実装が加速していくことを期待している」(佐々木氏)
佐々木氏は、パートナー企業と実証や導入を進めている事例をいくつか紹介した。例えば防災分野では、斜面崩壊が懸念される場所のグラウンドアンカーに光ファイバーを編み込み、その光ファイバーにかかる張力を、ひずみ量としてリアルタイムにセンシングするシステムを取り上げた。これにより、遠隔地からグラウンドアンカーのヘルスモニタリングや予知保全を行うことができる。
製造分野では、OKIの取り組みとして、同社の本庄工場(埼玉県本庄市)に導入したAIエッジとローカル5Gを組み合わせた、「外観異常判定システム」を紹介。来春の稼働に向け建設中の新棟に本格導入すべく、現在、実証をさらに進めている段階だ。OKIは2021年6月に、同システムを、スマート工場向けソリューションとして発売、今後3年間で10億円の売り上げを目指すとする。
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