「コロナワクチン接種拒否」に寄り添うための7つの質問:世界を「数字」で回してみよう(68)番外編(11/14 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンについて、必要回数のワクチン接種が完了した割合が70%を超えた日本。今回は、テーマをこれまでとは180度転換し、「コロナのワクチン接種を拒否することが、理論的か否か」について語ってみたいと思います。ワクチン接種を拒否する人も、肯定する人も、お互いの立場に立って、ワクチン接種について考えてみたいのです。今回もおなじみ、“轢断のシバタ先生”が、超大作の「シバタレポート」を執筆してくださいました。
Q4:ワクチンを打つ場合と打たない場合の損失時間の期待値を計算したら、ワクチンを打たない方がよい気がするのですが?
A4:「ワクチン非接種を選択した個人がその不利益について納得している」という前提で計算を試みます。
ざっくりとですが、1回目のワクチン接種では接種そのものに半日、2回目のワクチン接種では接種に半日、副反応で1〜2日間ほど回復に時間がかかります。もっと長期に発熱が持続したり、腕の痛みで通常通りのパフォーマンスが得られなかったりする人もいるかもしれませんが、1回目と2回目でワクチン接種により合計2日ほどが潰れることになります。
これに対し、コロナに感染して失われる時間の期待値を計算してみます。
現状、感染者のうち軽症例では、症状確認の時点、もしくは検査陽性判明の時点からそれぞれ10日間の自宅待機を指示されています。また、入院患者の平均在院日数は9.5日と報告されています。入院患者は入院までに数日を要していますし、退院後のリハビリ期間も必要でしょう。自宅待機者も10日後即座に日常生活に戻ることは難しそうですので、単純化も兼ねて平均損失時間を一律20日とします。
感染確率は感染者数約170万/全人口12600万=1.3%。これに期待損失時間20日をかけて、期待損失時間は0.27日間という事になります。ワクチンを選択すればほぼ確実に失われる2日間と比較して計算上は明らかに少ない数字が得られます。
さらに、日本全体で失われる期待時間を計算してみます。1人が1時間、1日を使う仕事量を人時(man-hour)、人日(man-day)という単位で計算する手法を「工数」と言い、これは作業量の計算を行う際に使われる単位だそうです。
江端コメント
私たちエンジニアの世界では「工数」は日常用語なので、ちょっと驚きました。
これを用いてワクチンによる損失時間を日本全体で計算してみることにします。
80%の接種率(1億2600万人×0.8≒1億人)×(0.5日+1.5日)=2億人日が失われることになります。これを365日で除すと、55万人年と換算され、なんと5万5000人が懲役10年に処せられるほどの時間損失がワクチン接種によって発生しています。しかも、経済活動をほとんど伴いません。
これに対して、感染によって失われた総損失時間を計算してみます。1人当たりの平均喪失時間は上記20日を使用します。
昨年(2020年)10月からことし(2021年)10月までの1年間の感染者数約170万人をもとに計算すると、170万×20日間=3400万人日が失われたことになります。これはワクチンにより失われる損失時間(2億人日)より一桁少ないという計算結果が得られます。
さらには、これらの損失時間は医療活動、医薬品の生産、新規医薬品開発のイノベーション、待機宿泊施設の稼働など、各種経済活動を発生させています。このため、3400万人日という工数は単純損失とは言えません。このため経済的要素を加味した損失工数の差は単純な引き算以上に大きくなる可能性があります。
結論として、感染中の苦しみや死亡への恐怖および、死亡による感情的または経済的損失のことを完全に忘れて、単純に損失時間だけを考えて比較すれば、ワクチン接種時間を拒否することは合理的な判断である、と言うことができます。
Q5:コロナワクチン接種を拒否することに法的な問題は無いでしょうか
A5:コロナを含めて全ての予防接種は任意接種なので、全く問題ありません。逆に、ワクチン接種を強要することは罪に問われる可能性があります。
Q6:医師の説明の歯切れが悪くて、信用できないのですが?
A6:申し訳ありません。
例を挙げれば「妊娠や胎児に対しての悪影響は無い……と考えられている……のではないかと思います」とか、「不妊症の原因にはなりません……例外がゼロと断言することはできませんが……理論上100%大丈夫かと保証を求められるとちょっと……」のように、断言を避ける表現を取る医師は少なくありません。
訴訟リスクを避けるクセがついているため、語尾に断定の形を取らない(取れない)のです。「統計上有意であること≠目の前の個人への効果の保証」についてはご理解を頂きたいです。
逆に、細かな説明を省いて断定形で話すことを好む医師もいますが、そのような医師は訴訟を抱えていることが多い印象です。医師と話をする際にはその辺りの事情を忖度しつつ、ご自身の利益が最大となるよう上手に医師をご活用いただけると幸いです。
もっと言えば「科学的に間違いがまったく無い説明」と、「患者にとって利益の期待値が最大になる説明」は必ずしもイコールではありません。自虐になりますが、コロナに限らず、難解な医療用語に振り回されながら正しい理解が無いままに同意書にサインを強いられる患者が一定数(実は多数?)存在することは、医療界では暗黙の了解です。
説明する側を責めず、「ワクチン接種拒否」の選択結果だけを責めるのはアンフェアでしょう。医師がもっとコミュニケーションスキルを磨くべきだという批判は正しいと思います。
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