触覚伝達技術が進化、薄型/軽量化と工数削減を実現:京セラ「HAPTIVITY i」
京セラは2021年11月8日、電子部品を搭載した基板を3D射出形成でカプセル化するフィンランドのスタートアップTactoTekの技術「IMSE(Injection Molded Structural Electronics)」に同社独自の触覚伝達技術を融合させた複合技術「HAPTIVITY i」を開発した、と発表した。産業機器、車載、医療、通信など幅広い用途で触覚伝達機能を有するモジュールの薄型/軽量化、部品数、工数の削減、自由な設計によるシームレスデザインを実現するとしている。
京セラは2021年11月8日、電子部品を搭載した基板を3D射出形成でカプセル化するフィンランドのスタートアップTactoTekの技術「IMSE(Injection Molded Structural Electronics)」に同社独自の触覚伝達技術を融合させた複合技術「HAPTIVITY i」を開発した、と発表した。産業機器、車載、医療、通信など幅広い用途で触覚伝達機能を有するモジュールの薄型/軽量化、部品数、工数の削減、自由な設計によるシームレスデザインを実現するとしている。
IMSEとHAPTIVITY
IMSEは、電子部品を搭載した印刷回路基板を、3D射出成型プラスチック内に封入して1つの部品とするTactoTekの独自技術だ。
具体的には、フィルムに回路パターンを印刷で構成した上に、LEDなどの電子部品を実装。サーマルフォーミングによって製品表面の形状に成形する。その後、外観デザイン用の印刷を施して同様に成形したフィルムとともに射出形成用の金型に取り付け、フィルム間に樹脂材料を流し込むことで一体化した部品として製造する。軽量/薄型化、部品数および組み立て工程の削減を実現するほか、デザインの自由度も高いという利点がある。京セラは2021年4月にTactoTekとの間でライセンス契約を締結したという。
京セラの触覚伝達技術「HAPTIVITY」は、圧力検知と機械式ボタンの押下感触の再現、振動起動のそれぞれを圧電素子/振動増幅機構/制御回路およびソフトウェアの組み合わせによって最適制御する触覚伝達技術で、京セラの特許技術だ。
同社は、圧電素子と金属板バネを接着した圧電アクチュエータを開発。圧電素子の力を与えると電圧が発生する圧電効果と、電圧を加えると変形する逆圧電効果を利用することで、荷重検出と振動出力の両方を1つの部品で実現している。また、小型/薄型なほか、振動出力に遅延を感じない優れた応答性、入力信号の変更による多彩な触感の実現なども特長となっている。
HAPTIVITY iは「従来と次元の異なる触覚技術」
京セラが今回発表したHAPTIVITY iは、IMSEとHAPTIVITYを統合することで「それぞれの長所を損なうことなく、課題を補い合う最適なソリューション」を実現する技術だという。具体的には、軽量、薄型の筐体にタッチ操作時の触感フィードバック機能を搭載したいというIMSEへの要望に、薄型かつ多彩でリアルな触感を実現できるHAPTIVITYが応える。同時に、HAPTIVITYは重量がある対象物の振動に課題があったが、軽量、薄型IMSEであれば振動させやすくなる、といった形だ。同社は、「両技術を組み合わせることで、従来と次元の異なる触覚技術を市場に紹介できると考えている」と説明している。
京セラは、HAPTIVITY iの特長として2点を挙げている。1点目は、「薄型化とシームレス3Dデザインによる新しいHMI(Human Machine Interface)デバイス実現」だ。IMSEによって薄型化した筐体にHAPTIVITYを組み合わせることで、操作感を損なうことなく従来の機械式ボタンを代替し、一層の薄型化とシームレスな3Dデザインを実現。「設計の自由度向上によって、従来デザインでは実現が難しかった新しいHMIを実現し、幅広いアプリケーションに向けたソリューションが提案できる」としている。
2点目は、「部品点数、工数の削減」だ。従来の機械式デバイスは、複数のサプライヤーから部材を購入して組み立て、性能の調整が必要だった。HAPTIVITY iでは、外観デザイン、照明、タッチスイッチ、そしてHAPTIVITYを1つのモジューつとして提供することが可能であり、部品、工数の削減に貢献する。同社によると、自動車用ステアリングスイッチを機械式から置き換えた例では、厚みが約24%、部品点数が約90%、重量が約36%削減できたという。
同社によると、触覚伝達デバイスの市場規模は2020年の3700億円から2030年には6000億円にまで成長することが見込まれている。同社はこの6000億円のうち300億円をIMSEを用いたデバイスが占めるとみており、「IMSEとHAPTIVITYの両技術を用いて開発ができるのは当社だけであり、100%のシェア獲得を狙う」と説明している。2022年春ごろまでに同社滋賀野洲工場(滋賀県野洲市)にHAPTIVITY iの試作ラインを構築、同年夏には技術サンプルを出荷する予定で、2023年の量産を目指す。
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