東大、万能動作の光量子プロセッサを開発:「究極の大規模光量子コンピュータ」の心臓部
東京大学は、独自の光量子プロセッサを開発した。このプロセッサは、回路構成を変更しなくても、大規模な計算を最小規模の光回路で実行できることから、「究極の大規模光量子コンピュータ」の心臓部になるという。
独自の計算回路で、計算の種類や繰り返し回数の変更を可能に
東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎准教授と榎本雄太郎助教らによる研究チームは2021年11月、独自の光量子プロセッサを開発したと発表した。このプロセッサは、回路構成を変更しなくても、大規模な計算を最小規模の光回路で実行できることから、「究極の大規模光量子コンピュータ」の心臓部になるという。
光を用いた量子コンピュータは、常温・大気中で動作し、量子通信との相性が良く、高速処理が可能なことから、近年注目を集めている。こうした中で武田氏らは、2017年9月に「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を考案した。
この方式は、多数の光パルスを時間的に一列に並べ、これらが1個の万能な計算回路(光量子プロセッサ)を何度もループする構造である。この回路は、計算の種類を切り替えながら繰り返し計算できるため、大規模な計算でも最小規模の回路で実行できるという。
一般的に、光量子コンピュータの計算回路は、「2つの光パルス間における量子もつれの合成」「片方の光パルスの測定」「もう片方の光パルスへの操作」という一連の手順により、加減乗除のような計算を1回行う。武田氏らはこれまで、光量子プロセッサ回路の一部を開発し、「量子もつれ光パルスの合成」まで検証していた。
そして今回、回路のさまざまな構成要素(ミラーの透過率や光スイッチのオン/オフなど)をナノ秒の精度で時間同期しながら切り替える仕組みを導入した。これにより、「計算の種類の切り替えが可能」で「何ステップも繰り返し計算可能」な独自の計算回路(光量子プロセッサ)を実現した。
開発した光量子プロセッサは、量子コンピュータに必要とされる5種類の計算のうち、4種類を同じ回路構成で実行できることを、実験により確認した。もう1種類の計算も特殊な補助光パルスを入力すれば実行できることが理論的に分かった。実験では一連の手順を繰り返すと、最大3ステップの計算まで行えることを実証した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 急峻なスイッチング特性のポリマー半導体TFT開発
東京大学は、ポリマー半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)において、大きく特性を改善させる要因を解明し、この成果を基に実用的な塗布型TFTの開発に成功した。 - 有機半導体で「絶縁体−金属転移」を実験的に観測
東京大学や産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構による共同研究グループは、有機半導体における「絶縁体−金属転移」を実験的に観測することに初めて成功した。 - 東京大ら、核スピンを利用した熱発電を初めて実証
東京大学の吉川貴史助教らによる研究グループは、「核スピン」を利用した新たな熱発電を初めて実証した。電子に基づくこれまでの熱電変換は、室温以上の高温域に限られていた。核スピンを利用することで、絶対零度付近の極低温域まで熱電変換が可能になるという。 - 東京大学ら、FeAs-InAs単結晶超格子構造を作製
東京大学らの研究グループは、InAs半導体結晶中のほぼ1原子層の平面にFe原子を配列した「FeAs-InAs単結晶超格子構造」を作製することに成功し、さまざまな新しい物性を観測したと発表した。 - 東京大ら、低電圧で長寿命の強誘電体メモリを開発
東京大学は富士通セミコンダクターメモリソリューションと共同で、1V以下という極めて低い動作電圧で、100兆回の書き換え回数を可能にした「ハフニア系強誘電体メモリ」を開発した。 - 東京大ら、3次元集積可能なメモリデバイスを開発
東京大学は、神戸製鋼所およびコベルコ科研と共同で、Snを添加したIGZO材料(IGZTO)を用いた3次元集積メモリデバイスを開発、動作実証に成功した。プロセッサの配線層上に大容量メモリを混載することが可能となる。