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チャネル長が2.8nmのCNTトランジスタを開発局所的にらせん構造の変化を誘起

物質・材料研究機構(NIMS)を中心とした国際共同研究チームは、チャネル長がわずか2.8nmのカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタを開発し、室温で量子輸送が可能であることを実証した。

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TEMでその場観測しながら、CNTの電気特性を制御

 物質・材料研究機構(NIMS)を中心に、産業技術総合研究所(産総研)や東京大学、ロシア国立科学技術大学などの国際共同研究チームは2021年12月、チャネル長がわずか2.8nmのカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタを開発し、室温で量子輸送が可能であることを実証したと発表した。

 CNTは、「カイラリティ」とも呼ばれるらせん構造により、金属や半導体のように振る舞う。このため、半導体CNTは、エネルギー効率が高いナノトランジスタの製造に適した物質といわれてきた。しかし、個々のらせん構造を変えて、電気特性を適切に制御できるかが、これまでの課題となっていた。

 共同研究チームは今回、独自のその場透過型電子顕微鏡(TEM)法を用い、局所的にCNTのカイラリティを変化させ、CNTの電気特性(金属−半導体移転)を制御することで、CNT分子内トランジスタを作製することに成功した。

 実験では、TEM内で3次元操作できる2本の探針を備えた精密ナノマニピュレーション技術を開発。これを用い、TEMで観察しながら金属電極エッジから突出したCNTにナノ探針を近づけ、「加熱(ジュール熱)」と「引っ張りひずみ」を与えることで、局所的にCNTのらせん構造を変化させた。電子回折パターンと球面収差(Cs)補正TEMで取得した原子分解TEM像を用いて、この変化を解析した結果、らせん角が増大することを発見したという。

 また、サスペンデッド型トランジスタを用い、CNTの電気輸送特性をCNT内で測定した。加熱と引っ張りひずみの調整にこの結果をフィードバックして用いることにより、金属CNTから半導体CNTへの転移制御を可能にした。CNTの直径を連続的に小さくするとゲート電圧が大きくなるなど、CNTのバンドギャップがCNTの直径に反比例することも明らかにした。


左はCNT分子内トランジスタの模式図、中央は透過型電子顕微鏡像、右は電流−電圧特性[クリックで拡大] 出所:NIMS他

 今回作製したCNTトランジスタは、直径が約0.6nm、チャネル長は約2.8nmである。駆動電圧0.5Vにおいて、オン電流は0.74μA(電流密度は1233μA/μm)、オフ電流は0.2nAで、オン/オフ比は3700となった。サブスレッショルドスイング(SS)は1.33V/decで、既報のサスペンデッド型トランジスタ(チャネル長30nmでSS値が4.9V/dec)に比べ、特性が優れているという。

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