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課題満載のSTEM教育でも、コロナ下で起きていた教育現場のパラダイムシフト踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(17)STEM教育(5)(4/6 ページ)

本シリーズでは、STEM教育の中でも特にプログラミング教育を取り上げてきましたが、やはり課題(ツッコミどころ)は満載です。それでも、いろいろと調べていくうちに、いくつかの光明も見えてきました。

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「女子は理系が苦手」と刷り込まれていく

 実際のところ『女子は理系が苦手』が刷り込まれていくプロセスは、データからも読み取ることができます。

 上記の結果を見てみると、女子は男子より「理系が苦手」の傾向が少ないとは言えますが、それでも10〜20%の程度です。前述したOECDの結果で見られる、日本人の研究者の男女比8:2(参考)に比べれば、誤差の範囲です。

 それよりも、私がショックを受けたのは、男女関係なく年齢が上がるについて「理系離れ」が進行していることです。「そもそも、日本人は”科学”が嫌いなんじゃないか?」とすら思えてきます。

 また、最近の小学生のことはよく知りませんが、小学生のころ、男子と女子は、何をするにも、敵対する関係にあったような気がします。以下の図では、小学生女子が、小学生男子を見下す様子が見てとれます。

 これは「ちょっと男子! ふざけていないで、ちゃんと掃除しなさいよ」という定番の女子のセリフでも見られます*)し、小学生男子が、小学生女子より、幼稚な思考と行動を取っているのは、下校時の子どもたちの様子を見ているだけでも明白です。

*)例えば、こちらの記事です。

 しかし、引き続き、上の図(数学に関する男女差についての主観の調査)を見てみると、年齢とともに男子が冷静な自己分析をするようになり(謙虚になり)、そして、女子に至っては、自信を失っている(自己肯定力を失っている)、という状況も観測できます。

 この結果より、中学生の時に「女子は理系が苦手」を社会的に刷り込む「何か」がある、と推定できます。

 そこで思い出したのが、嫁さんの名言「リトマス紙が何色になろうと、それが何だと言うの?」です。さらに今回、次女へのインタビューで得られたコメント「科学実験は絶望的につまらなかったので、男子が喜んでやっているのを見ているだけだった」も引っ掛かりました。

 この状況を反映していると考えられるのが次の図です。

 実験というのは、科学という学問の根幹ですから、「実験が嫌い」であるということは、「科学が嫌い」と同じ意味になります。これが中学生女子に現われているというのは、見逃せない事象です。しかし、問題は「なぜ実験が嫌いになるのか?」です。

 この理由について、私は2つの仮説を考えました。

 1つ目は、「女子は、日常とリンクしない科学実験にウンザリしてしまう」ということです。

 学校教育は、リカレント教育*1)とは異なり、実学(金を儲ける手段としての学問)ではなく、バランスの良い国際教養人の育成に重点が置かれています(と、教育基本法に記載されています)*2)

*1)関連記事「リカレント教育とは、“キャリア放棄時代”で生き残るための「指南書」であるべきだ
*2)関連記事「リカレント教育【前編】 三角関数不要論と個性の壊し方

 一般的に女性は男性よりも現実主義者であることは、事実として取り扱っても良いでしょう(男性に夢想家が多い、とも言える)。そのように考えた場合、現実主義の女性へと完成しつつある中学生女子にとって、実生活との関連を1mmも見いだすことのできない学校の科学の実験に対して、うんざりした気持ちを持つ、ということは、理にかなっていると思います。

 2つ目は「男子の理科実験への興味の深さと比較をしてしまう」です。

 次女の「男子が勝手に実験を進めてしまう」という観測結果から、中学生女子に「やっぱり男子は実験が好きなんだなぁ」と認識するようになり、それは「私は、実験がそれほど好きではない」という思いを強化することになります。

 ここに、女子同士のコミュニケーションが加わり「女子は実験が好きではない」という思い込みとして固定してしまうのではないか、と考えられます。これは、女子高からの理系進学者の比率が、共学校からのそれより、圧倒していることからも明らかです*)

*)こちらの資料の「桜蔭中学校・高等学校」など

 このほか女子受験生の浪人回避の傾向(男子受験生に対する世間の浪人の寛容の高さ)、親の理系女子に対する理解(親の出身大学の学科や、親の職種)の有無など、私たちは、さまざまな「女子は理系が苦手」を強化する社会の思い込みと同調圧力を、簡単に見つけ出すことができます。

理系の人生は「本当に楽しい」

 個人的に言えば、私は別段、理系女子を増やしたいと思っているわけではありません。性別に関係なく、理系が苦手な子どもに、理系を薦める気にもなりません。OECDの36加盟国中、36位という結果も、恐ろしく恥ずかしいですが、まあ我慢できます。

 もっとも、嫁さんの方が、この結果を聞いて青冷めていました。『日本って、先進国なんだよね』と呟いていたくらいです。そもそも日本の理系レベルは、今や、国際的には底辺にいます(英語力51位、デジタル競争力28位、等々)。近い未来、「ノーベル賞」という言葉が、我が国で使われなくなることは、私には折り込み済みです。

 しかし、私は、理系の素養や興味がある人間が、その機会を失ってしまうことを見逃すことはできません。なぜなら、理系の人生は、本当に楽しいからです*)

*)こちらの記事が、ティーン女子のハートにヒットするかどうかは不明ですが、ご参考までに→「若きエンジニアへのエール〜入社後5年間を生き残る、戦略としての「誠実」〜

 楽しい人生は、楽しくない人生より、絶対に良いです。その「楽しい」が、性別ごときで制限される社会であれば、それは社会が悪いのであって、つまり、私たち一人一人にそれを直す義務があるのです。

 社会を、現状のままほったらかしにしておけば、理系女子の数は、今の水準で止まるか、さらに悪化していきます。だからこそ、女性の理系選択を妨げる、社会の思い込みと同調圧力を「力づくでぶっ壊していく」必要があるのです。法律の改正、学業支援制度、就職優遇 ―― いかなる手段を用いても、この負のループバックをたたき壊す必要があります。

実際、女性ITエンジニアはどのくらいいるのか?

 さて、話を元に戻します ―― 前述した通り、「プログラマー=理系の職業」というのは世間の誤解です。ですので、上記の理系女子の話と、女性のプログラマーとの関係については、今回、私は意図的なミスリーディングをしています

 しかし、理系女子も、女子プログラマーも、同種の社会の思い込みと同調圧力のせいで、職業選択の枠外とされている可能性は高いと考えています。なぜなら、前述した通り、女子の希望に、ITの職業 ―― 特にプログラマー志望(ゲーム作成を含む)が、影も形も出てこないからです。

 では、実際のところ、女性プログラマーがどのように推移しているのかを、実データでご覧頂きたいと思います。

 このデータは、アンケートに応じた会社のデータを積み上げた実測値なので、日本国内の実数とは大きく乖離していることを、あらかじめご了承いただき、ざっくりと傾向のみに着目してください。

 女性ITエンジニアは、ここ10年で増加しており、2010年度比率で130%程度です。2018年辺りに大きい伸びがあったのですが、原因は不明です。ただ、これはITエンジニア全体*)の人数なので、プログラマーの数は、実質的にはこの半分くらいと思ってください。

*)ITエンジニアの構成比は、SIサービス2割、ソフトウェア開発(プログラマー)5割、ソフトプロダクト開発・販売、ITアウトソーシング、クラウド関連サービスで合計1割、情報処理サービス1割、といったところです。

 しかし、ITエンジニアの男女比は、もうこれは圧倒的に男性が多いです。

 女性ITエンジニアは年々増えているのですが、男性ITエンジニアに減少傾向が見られます。全体としても人数が減っているのも気になります。

 こちらは、私が以前、「笑う人工知能 〜あなたは記事に踊らされている〜」で試算した、ITエンジニア人口の概算です。

 日本のITエンジニアの数は、ざっくり100万人、プログラマーは30万人と覚えておいてください。

 ITエンジニア人口としては、米国、中国、インドに次いで、世界第4位ですが、人口比から見ると、世界32位になります(米国は9位、中国は67位、インドは70位)です。

 実は日本人は日本人であるだけで、IT分野については大きなデメリットがあるのです。それは、またしても、いつでも、どこでも、私たちの目の前に立ちはだかる敵 ―― 英語です。

 エラーメッセージを読みながら、プログラムを修正していく処理「デバッグ」が、そのプログラミングの作業時間の大半を占めます。そして、コンピュータ言語におけるエラーメッセージは、100%英語で記載されています

 もちろん、このようなエラーメッセージについて、無報酬かつ善意で、日本語で解説を書いて、公開してくれる親切なエンジニアもいますが、基本的に、プログラマーは、エラーメッセージの英語が理解できなければ、仕事になりません。ネットに質問を上げる時、日本語のサイトで解決すれば良いのですが、日本語と英語のサイトの情報量を考えれば、圧倒的に英語のサイトが多いからです。

 たった1行のバグコードが解決できず、そのプログラミングを断念する ―― そんなことは、プログラマーにとっては日常茶飯事です。

 要するに、日本人がプログラマーとして生きていくには、

(1)エラーメッセージを理解して、英語で書かれた海外のサイトを読める程度の英語を履修する
(2)日本人だけのコミュニティでエラーメッセージを教え敢えるだけのプログラマー人口を(今の10倍以上に)増やす

くらいしか思いつきませんが、上記(2)は、当然無理に決まっています。

 「コンピュータを使わずにプログラミング的思考を育む」というような「プログラミング的思考」の発想は、もしかしたら、こういうショボい理由『英語に愛されない日本人』に配慮した、政府(文部科学省)の苦肉の策なのかもしれません。

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