高集積で長期安定のセンサーアレイチップを開発:1024個の分子センサーを1チップに
東京大学と慶應義塾大学の研究グループは、1024個の金属酸化物ナノ薄膜分子センサーなどを1チップに集積した「センサーアレイチップ」を開発、揮発性分子の空間濃度分布を可視化することに成功した。
分子の種類を識別できる可能性も
東京大学と慶應義塾大学の研究グループは2022年1月、1024個の金属酸化物ナノ薄膜分子センサーなどを1チップに集積した「センサーアレイチップ」を開発、揮発性分子の空間濃度分布を可視化することに成功したと発表した。
開発したセンサーアレイチップは、高温下でも安定して分子を検出できる金属酸化物半導体を、クロスバー構造に配置することで高集積化を可能にした。具体的には、酸化スズ(SnO2)のナノ薄膜をチャネルとする横型チャネル構造センサーを、半導体微細加工技術を用いて作製し、格子状に電極(クロスバー電極)を設けた。
作製したセンサーアレイチップは、チップ全体の面積が1cm2以下で、合計1024個(32×32)の分子センサーを約5mm角に集積している。そして、新たに開発したアナログフロントエンド回路を採用することによって、1024個あるセンサーの電気抵抗値を1秒以下で同時に計測することが可能になった。
開発したセンサーアレイは、50nmという極めて薄い酸化スズの膜中を平行に流れる電流で、分子を検出する。電流経路の断面積を小さくすれば、センサーの電気抵抗が大きくなる。これによって配線抵抗による影響を軽減し、センサーの電気抵抗をより正確に計測することが可能となった。
分子を検知する材料として酸化スズを採用した。これは分子センサーの長期間安定性を実現するのが狙いである。また、ナノ薄膜をチャネルとするセンサーでは、チャネルと電極の界面劣化が課題となる。今回は電極材料として、導電性の金属酸化物(アンチモン添加酸化スズ)を採用することで課題を解決した。500℃の熱負荷をかけた後でも、センサーの電気特性は劣化しないという。
試作した1024個のセンサーアレイシステムを用いて、センサー近傍から蒸発、拡散してくる分子を検出する実験を行った。センサーチップの隣にアルコールの液滴を置いたところ、液滴に近い部分ではセンサーが大きく応答し、遠い部分では小さく応答した。
分子拡散シミュレーションの結果、遠近による反応差は分子の空間的な濃度分布を反映していることが明らかになった。また、センサー応答の勾配を解析したところ、分子の種類によって異なる傾向を示すことが分かった。研究グループでは、開発したセンサーアレイを用いて、分子の種類(蒸気圧)を判別できる可能性があるとみている。
![](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2201/26/tm_220126tokyo03_w590.jpg)
左は液滴を蒸発、拡散させた分子をセンサーアレイで検出する実験の様子、中央は蒸発、拡散してきたエタノールに対するセンサー応答とセンサー列の関係、右はセンサー応答の勾配(傾き)と各種液滴滴下後の時間の関係[クリックで拡大] 出所:東京大学、慶應義塾大学
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の大学院生である本田陽翔氏や高橋綱己特任准教授、柳田剛教授および、慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻の大学院生である椎木陽介氏と同大学理工学部電気情報工学科の石黒仁揮教授らによるものである。
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