低下した全固体電池の性能を加熱処理で大幅改善:電気自動車用電池への応用に期待
東京工業大学は、東京大学や産業技術総合研究所、山形大学らと共同で、低下した全固体電池の性能を、加熱処理だけで大幅に改善させる技術を開発した。電気自動車用電池などへの応用が期待される。
電極の劣化メカニズムを解明し、改善手法を開発
東京工業大学は2022年1月、東京大学や産業技術総合研究所、山形大学らと共同で、低下した全固体電池の性能を、加熱処理だけで大幅に改善させる技術を開発したと発表した。
全固体電池は、高い安全性や高速充電といった特長があり、電気自動車などの用途で注目されている。ところが、電極材料によっては大気中の気体と反応して界面抵抗が増加、電池性能を低下させることもあり、本格的な実用化に向けて課題になっていたという。
そこで研究グループは、固体電解質(Li3PO4)と電極(LiCoO2)の界面を有する薄膜型全固体電池を作製し、界面抵抗を増大させる要因などを調べた。実験では、試料作製時に電極表面を「大気」「酸素」「窒素」「水素」「水蒸気」と5種類の気体にそれぞれ暴露し、電池性能への影響を確認した。
この結果、「大気」および「水蒸気」に暴露したケースでは、界面抵抗が暴露前に比べ10倍以上も増大した。特に、「水蒸気」の場合は電極の劣化が極めて激しく、電池性能が著しく低下することを観測した。これに対し、「酸素」「窒素」「水素」に暴露させても、電池性能の低下は認められなかったという。
続いて、低下した電池性能を改善するための手法を検討した。水蒸気によって劣化した電極を用いて電池を作製した。この電池を動作させる前に150℃で1時間の加熱処理を行うと、電池の動作特性が大幅に改善されることが分かった。界面抵抗の大きさを見積もったところ10.3Ωcm2となった。この値は、加熱処理前に比べると10分の1以下である。しかも、大気や水蒸気に全く暴露せずに作製した清浄な界面の抵抗値(10.9Ωcm2)とほぼ同等であることも分かった。
加熱処理を行う際の注意点も明らかにした。それは完全に電池となっている状態で処理を行う必要がある。電池へ組み上げる前に加熱処理しても電池性能は改善されないという。
加熱処理による電池特性改善のメカニズムについて、放射光X線による界面数nmの結晶構造解析や元素組成分析、第一原理計算により、多角的に界面のプロトン(H+)やリチウム(Li)の挙動を評価した。この結果、電極表面を水蒸気に暴露すると、電極の結晶構造を乱さずに、電極内部にプロトンが侵入することが分かった。
界面抵抗が上昇する原因は、このプロトンが界面Liイオン輸送を阻害しているためだとみている。電池を加熱処理することで、侵入したプロトンがLi3PO4中へ自発的に移動し、正常な界面に回復することが明らかになった。
今回の成果は、東京工業大学物質理工学院応用化学系の小林成大学院生(博士後期課程3年)や一杉太郎教授が、東京大学のElvis F.Arguelles特任研究員や渡邉聡教授、産業技術総合研究所の白澤徹郎研究グループ付、山形大学の笠松秀輔助教らと行った共同研究によるものである。
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