シリコンフォトニクス技術「COUPE」の電気的な性能:福田昭のデバイス通信(345) TSMCが開発してきた最先端パッケージング技術(18)(1/2 ページ)
前回に続き、TSMCが考えるPE(Photonic Engine)の実現方法「COUPE(COmpact Universal Photonic Engine)」を紹介する。今回は、「COUPE」の電気的な性能をシミュレーションした結果をご報告する。
「COUPE」の電気的な性能をシミュレーションで見積もる
高性能プロセッサとその関連技術に関する国際学会「Hot Chips」が昨年(2021年)8月22日〜24日にオンラインで開催された。「Hot Chips」は高性能プロセッサの最新技術情報を入手できる貴重な機会として知られている。会期は3日間で、初日が「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶ技術講座、2日目と3日目が「カンファレンス(Conference)」と呼ぶ技術講演会となっており、講演会とは別にポスター発表の機会も用意される。オンライン開催となった昨年は、あらかじめ録画されたビデオをプログラムに沿って公開する形式となった。参加登録者は開催後も一定の期間は、オンデマンドで講演を聴講できる。
初日の「チュートリアル(Tutorials)」では、13件の講演が実施された。その中で「先進パッケージング技術」に関する講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D(チップレットと3次元集積に向けたTSMCのパッケージング技術)」が極めて興味深かった。講演者はTSMCで研究開発担当バイスプレジデント(現在はシステム集積化手法開発担当バイスプレジデント)をつとめるDouglas Yu氏である。
そこで本講演の概要を第328回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D(チップレットと3次元集積に向けたTSMCのパッケージング技術)」のアウトライン。前々回から、最後のテーマである「Si Photonics Integration(COUPE)」の講演部分を紹介している[クリックで拡大] 出所:TSMC(Hot Chips 33の講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D」のスライドから)
前々回から、最後のパートである「シリコンフォトニクス」に関する講演部分を紹介している。前々回は銅ケーブル(銅配線)伝送と光伝送の境界(伝送速度×距離)を定義するとともに、シリコンフォトニクスを実装する手段の変遷を説明した。前回は、電気信号を光信号に変換(あるいはその逆に変換)する回路ユニット「フォトニックエンジン(PE:Photonic Engine)」の構成と、TSMCが考えるPEの実現手法「COUPE(COmpact Universal Photonic Engine)」の概念を述べた。今回は、「COUPE」の電気的な性能をシミュレーションした結果をご報告する。
電気信号によって光を変調して送信し、光検出器で受信した光を電圧信号に変換
前回の繰り返しになるが、「フォトニックエンジン(PE)」の内部構成を簡単に説明しておこう。PEは半導体ロジックのASICが出力する高速な電気信号を光信号に変換する(あるいは高速な光信号を電気信号に変換してASICに入力する)。PEの内部は電気回路部(EIC:Electrical IC)と光回路部(PIC:Photonic IC)に分かれている。EICは光変調の駆動回路(DRV)とインピーダンス変換アンプ(TIA:transimpedance amplifier)を内蔵する。PICは光検出器(PD:photodetector)と光変調回路(MOD)を備える。同じPEが、光ファイバ伝送の送信用と受信用を兼ねる。送信用と受信用で違うのは、外付け部品と内部接続である。
フォトニックエンジン(PE)を利用した光ファイバ伝送の仕組み。PEの基本的なアーキテクチャは、光伝送の送信側と受信側で変わらない[クリックで拡大] 出所:TSMC(ECTC2021の発表論文「Heterogeneous Integration of a Compact Universal Photonic Engine for Silicon Photonics Applications in HPC」から)
送信側のPEは、外付けの半導体レーザー(LD:laser diode)から出た光信号(無変調信号)を受け、PICの光変調回路(MOD)で光信号に変調を加える。光変調回路はEICの駆動回路とASICによって制御する。変調済み光信号は光ファイバを通じて受信側PEへと送られる。
受信側のPEは、PICに接続した光ファイバの変調済み光信号を受け取り、PDとTIAを介して電気信号(電圧信号)に変換する。電圧信号はASICによって復調する。
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