TSMCの5nmプロセス採用したヘテロジニアスAIプロセッサ:Redpine創業者による新興企業
AI(人工知能)チップを手掛ける新興企業Ceremorphicが2022年1月、ステルスモードから姿を現した。同社が提供するヘテロジニアスAIプロセッサは、データセンターや自動車、高性能コンピューティング(HPC)、ロボット工学などのさまざまな新しい用途に向けた、モデルトレーニングをターゲットに定めるという。
AI(人工知能)チップを手掛ける新興企業Ceremorphicが2022年1月、ステルスモード(開発完了まで情報を伏せること)から姿を現した。同社が提供するヘテロジニアスAIプロセッサは、データセンターや自動車、高性能コンピューティング(HPC)、ロボット工学などのさまざまな新しい用途に向けた、モデルトレーニングをターゲットに定めるという。
Ceremorphicを設立したのは、Redpine Signalsの創業者兼CEO(最高経営責任者)であるVenkat Mattela氏だ。同氏は、2020年4月にRedpine Signalsのワイヤレス事業部門をSilicon Labsに3億800万米ドルで売却した。CeremorphicのヘテロジニアスAIプロセッサは、TSMCの5nmプロセス技術を適用して製造するという。
Redpine SignalsからSilicon Labsへのワイヤレス事業部門の売却対象には、130件の特許や225名から成る開発チームの他、Redpine Signalsのワイヤレス技術/製品ポートフォリオなどが含まれていた。Redpine Signalsは、同部門を売却する前の約4年間で、小規模ながらも戦略的なAIプロセッサプロジェクトを手掛けていたという。
既存メーカーより「少なくとも2年先を進んでいる」
Mattela氏と18名のメンバーから成る開発チームは、主要な特許と共に、Redpine SignalsからスピンアウトしてCeremorphicを設立した。Ceremorphicのポートフォリオには、2003年に開発されたマルチスレッドプロセッサマクロアーキテクチャ「ThreadArch」(Silicon Labsにライセンス供与されたが、売却はされていない)も含まれている。
Mattela氏はインタビューの中で、「Ceremorphicは、初期段階にある既存の技術メーカーと比べると少なくとも2年先を進んでおり、優位性を確立している」と主張した。CeremorphicがシリーズAの投資ラウンドで獲得した5000万米ドルの資金は、Mattela氏やRedpine Signalsの従業員、友人たちが提供したという。
Ceremorphicは、インドのハイデラーバード(Hyderabad)に主要拠点を置き、150名の従業員を抱えるまでに成長、100件の特許による健全なポートフォリオを保有する。また2022年3月には、TSMCの5nmプロセス技術を適用したテストチップ「QS1」をテープアウトする予定だとしている。CeremorphicがTSMCの最先端プロセス技術に迅速にアクセスすることができるのは、Mattela氏がこれまで30年間にわたり、TSMCとの協業関係を構築してきたためだ。これがCeremorphicにとって、重要な競争上の優位性になっている。
Mattela氏は、「これまでに数億米ドル規模の開発資金を投じてきた企業でも、現在まだ7nmプロセスにとどまっている。新しいプロセス技術の開発には、膨大な資金が必要だ。われわれは戦略として、当社をこの先10年間持続させることが可能な、適切なプロセスノードを確保することを目指していきたい」と述べる。
ターゲットは信頼性の実現
Ceremophicが、既存のAIプロセッサ市場におけるギャップの1つとして認識しているのが、信頼性だという。Mattela氏は、「スーパーコンピュータやAIに共通していえるのが、大量の演算処理が必要だという点だ。これは、半導体チップのサイズがより大きくなることを意味する。そうなれば必然的に不具合も増える。学習済みニュートラルネットワークの予測精度が、大規模AI学習システムの重要な測定基準になるだろう」と指摘する。
半導体チップやシステムの大型化が進み、複雑性も増すと、ソフトエラーの影響を受けやすくなる。その結果、データセンターにおけるワークロードジョブの不具合の発生頻度が高くなる。Mattela氏は、データセンターにおける信頼性の問題についてさまざまな事例を取り上げながら、「年々、問題が顕著になってきている」と述べる。
この分野の専門家たちは、Ceremophicの戦略を支持しているようだ。例えば、米スタンフォード大学(Stanford University)の電気工学/コンピュータサイエンス学部の教授、Subhasish Mitra氏は、報道向け発表資料の中で、「この業界には、信頼性のある性能を実現するコンピューティングが絶対に必要だ。Ceremorphicが現在進めている手法は、正しい方向に進んでいくための重要なステップだといえる」と述べる。
Ceremorphicは、「QS1チップは、ソフトエラーレート10万分の1を実現する」と主張する。
また同社は、「当社のアーキテクチャは、エネルギー効率や耐量子セキュリティ、拡張性などにも対応可能な設計だ」とも強調した。
同社によると、最先端ノードでのテープアウトは膨大なコストを要するため、QS1のテープアウトを1種類にして、さまざまな市場に対応する予定だという。アプリケーション要件に応じて複数のチップ/チップレットを接続し、大規模なシステムを構築するのだ。このためQS1アーキテクチャは、複数チップに拡張することによって生じる性能/パワーペナルティーを、削減することができるという。
カスタムのPCIe 6.0インタフェース
Mattela氏は、「われわれは、機械学習/処理に注いできたのと同じくらいの開発努力を、通信分野にも費やしてきた」と述べる。
Ceremorphicは、カスタムPCIe 6.0インタフェースIPも開発している。QS1は、16レーンを備え、インタフェース技術によって超低エネルギーでチップレットを接続するとみられる。Mattela氏は、ダイサイズについては明らかにしておらず、「一部のターゲット市場は大型チップの価格に非常に敏感なため、QS1はフルレチクルではない」と述べるにとどめた。
ヘテロジニアスQS1アーキテクチャは、「階層型学習プロセッサ」とも呼ばれ、2GHzのカスタムAIアクセラレーターと、同等の浮動小数点演算ユニットを備える。また、1GHzのRISC-Vマルチスレッドプロセッサは、CeremorphicのThreadArchをベースとしており、必要に応じてホストプロキシとして機能するという。Armの「Cortex-M55」で動作する、メタバース用途向けのカスタムビデオエンジンも備える。
Mattela氏は、「AIプロセッサは、SIMD(Single Instruction, Multiple Data)フレームワークをベースとする。AIプロセッサと浮動小数点演算ユニットの両方を、必要に応じて学習/推論ワークロード向けとして使用している。マルチスレッド技術を適用して、全てのスレッドを全サイクルで確実に実行させることにより、エネルギー効率を達成することが可能だ。これは、Redpine Signalsの超低消費電力ワイヤレス製品に使われている手法で、特許を取得している。Mattela氏によると、この技術は複数の処理ブロックで使われており、8ビット演算向けにアナログ計算機を使用するという。Ceremorphicはこの分野において、23個の特許を保有している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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