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日本における半導体産業のあるべき姿とは 〜議論すべき電子部品メーカーによる半導体内製化大山聡の業界スコープ(50)(2/2 ページ)

日本電産の半導体に対するこだわりを引用しながら、日本における半導体産業はどうあるべきか、私見を述べてみたい。

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一見リーズナブルな「半導体メーカーの買収」だが……

 筆者がここで主張したいのは、日本電産によるルネサス買収の是非ではなく、半導体の「内製化」を目指す企業に対して、どのような選択肢が取り得るか、という点である。半導体の技術や知見を取り込むために、半導体メーカーを買収する、というのは一見リーズナブルな選択肢のようではある。しかし日本電産のように自身が電子機器メーカーの場合、買収される半導体メーカーの顧客が減少し、買収によって事業価値が毀損する可能性があることを無視できない。

 ちょっと分野は異なるが、NVIDIAによるArm買収でも同様の問題が発生していた。NVIDIA自身がArmの顧客であり、NVIDIAと競合する企業の中にもArmの顧客が存在するので、この買収はArmの事業価値を大きく毀損する危険性が高いのだ。そもそも世界中の大手半導体メーカーや電子機器メーカーがArmの顧客である状況を考えると、その中の1社であるNVIDIAがArm株を独占すれば、世界中が混乱することだろう。2月8日、ソフトバンクはNVIDIAへのArm売却を正式に断念したが、この売却に当初から反対していた筆者としては、今回の決定を素直に喜んでいる。というより、こんな買収が成立するはずがないと信じていたので、破談になってホッとしている、というのが本音である。

 話を半導体の内製化に戻そう。筆者は日本電産のことを「電子機器メーカー」と表現したが、同社はクルマとかFA機器といった完成品を製造しているわけではないので、本来は「電子部品メーカー」と表現すべきだろう。村田製作所やTDKなどと同じカテゴリーに分類されることになるが、半導体の内製化を議論する際には、全く別のカテゴリーとして考える必要がある。これは単なる言葉遊びではなく、半導体メーカーの買収を検討する際に、対象になる半導体メーカーの企業価値が毀損するか否か、という明確な差異が存在しうるためである。

議論すべき電子部品メーカーによる半導体の内製化

 以前筆者はこの連載で「日本の半導体業界にとって“好ましいM&A”を考える」という記事を書いた。その中で「電子部品メーカーとして半導体事業を取り込む企業」について言及したが、厳密に言えば、上述したような「事業価値を毀損するリスクの少ない買収」に焦点を絞る必要があるだろう。もちろん、やみくもに買収をけしかけることが筆者の目的ではない。しかし、世界では半導体の重要性がますます高まっており、半導体市場の成長も加速しているにもかかわらず、日本の半導体産業はその流れから取り残されている。この状況に危機感を抱いた日本政府は2021年6月、「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめて公表した。TSMCを国内に誘致したのも、こうした戦略の一環である。にもかかわらず、民間の半導体業界の反応は鈍く、具体的な動きがなかな見られないのが現状である。

 乱暴な意見であることを承知で申し上げれば、成長の止まった日本の半導体業界は「積極的にヒト・モノ・カネを投入しようとする企業がほとんどなく、投入されないから成長しない」という悪循環に陥っている。この悪循環を断ち切る施策として「日系電子部品メーカーによる半導体の内製化」を具体的に議論することが有効ではないか、と筆者は考えている。幸いなことに、日本には世界市場をリードする優良な電子部品メーカーが多く存在し、その中の少なくない企業が半導体の内製化を実行、あるいは画策している。日本電産のように、事業価値を毀損しかねない買収を検討する事例もあるくらいだ。このような議論を活性化させるための施策を、半導体業界人の一人として今後も考えるべきだと痛感している。電子部品業界の皆さんにも、この議論に積極的にご参加いただけることを願っている。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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