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マイクロ波による電力伝送技術の基礎理論(アンテナの解説)福田昭のデバイス通信(355) imecが語るワイヤレス電力伝送技術(9)(2/2 ページ)

今回は、アンテナ(主に送電用アンテナ)を解説した講演部分を紹介する。

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アンテナが放射する電界と磁界の形状(パターン)

 アンテナの形状と寸法は、放射する電磁界の形状(パターン)を決定する。電磁界の放射パターン(方向と強度)として最も単純なのは、全ての方向に対して強度が均一なパターンだろう。このような完全に球形のパターンを放射するアンテナは「等方性アンテナ(Isotropic antenna、Isotropic radiator、Uniform radiator)」と呼ばれる。

 ただし「等方性アンテナ」は理論的あるいは仮想的な存在であり、実際に作ることは極めて難しい。実際のアンテナは、何らかの指向性(方向によって強度が異なる性質)を有する。「等方性アンテナ」が放射する電力の大きさと、現実のアンテナが放射する電力の方向による違いは「指向性関数(Directivity function)」と呼ぶ関数で示される。通常、指向性関数は三角関数(サイン波あるいはコサイン波)である。指向性関数によって決まる電力値が「指向性(Directivity)」であり、電磁波の指向性は3次元の曲面で表現することが多い。

 実際に作れる最も単純なアンテナである「ダイポールアンテナ(微小ダイポールアンテナおよび半波長ダイポールアンテナ)」の放射パターンは、線状のアンテナを垂直にレイアウトした場合にドーナツ、あるいはベーグルのような形状の3次元曲面となる。

 ドーナツを縦(垂直)に切断した曲面が電界の放射パターンであり、仰角によって強度が違う。つまり指向性がある。ドーナツを横(水平)に切断した曲面が磁界の放射パターンであり、全ての水平角に対して強度が等しい。指向性がなく(無指向性)、等方的である。このためダイポールアンテナを、「無指向性アンテナ」あるいは「全方向性アンテナ」の代表的な例として扱うことが多い。


ダイポールアンテナの放射パターン。右上が3次元曲面で放射パターンを表現したもの。ドーナツあるいはベーグルのような形状となる。右下が電界(E)の放射パターン(仰角方向)と磁界(H)の放射パターン(水平角方向)[クリックで拡大] 出所:imecおよびEindhoven University of Technology(IEDMショートコースの講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer」のスライドから)

 アンテナの特性を示す重要な指標に「利得(Gain)」がある。利得は放射する電界の最大強度を、半波長ダイポールアンテナと比較した相対値(dB)で示すことが多い。一般的には指向性が強い(放射角度の依存性が高い)アンテナほど、利得が大きくなる。

 もう1つの重要な指標に「放射効率(Radiation efficiency)η」がある。放射効率ηは「放射電力/入力電力(アンテナへの入力電力)」で定義する。「放射電力/(放射電力とアンテナによる消費電力の合計)」でもある。アンテナは寸法を小さくする(具体的には波長の4分の1未満の大きさにする)と内部損失が大きくなり、放射効率を低下させる傾向がある。このため、ウェアラブル機器に代表される超小型の無線機器ではアンテナの設計が非常に重要となる。

(次回に続く)

⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧

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