貴金属るつぼを使わず、酸化ガリウム単結晶を作製:新たな結晶育成技術と装置を開発
東北大学発ベンチャーのC&Aと東北大学金属材料研究所は、「貴金属るつぼ」を用いない新たな結晶育成手法により、最大約5cm径の酸化ガリウム単結晶を作製することに成功した。製造コストを抑えつつ高品質の結晶育成が可能となる。
直径2インチ酸化ガリウム基板の外販も計画
東北大学発ベンチャーであるC&Aの鎌田圭社長と東北大学金属材料研究所の吉川彰教授(東北大学未来科学技術共同研究センター兼務)は2022年4月、「貴金属るつぼ」を用いない新たな結晶育成手法により、最大約5cm径の酸化ガリウム単結晶を作製することに成功したと発表した。製造コストを抑えつつ高品質の結晶育成が可能になる。
酸化ガリウムは、シリコン(Si)に比べ約3400倍、炭化ケイ素(SiC)に比べても約10倍という省エネルギー効果を得ることができる。しかも、融液成長が可能なためSiCに比べると、成長速度は10〜100倍程度も速いという。一度に大量の結晶を製造することが可能であり、酸化ガリウム基板の低コスト化が期待されている。
ただ、結晶育成方法としてこれまでは、融液を保持する「るつぼ」に極めて高価な貴金属「イリジウム」を用いていた。このため、「製造コストを低減するのが難しい」「酸素欠陥が生じる」といった課題もあったという。
研究グループは今回、「るつぼ」を用いない新たな結晶育成装置と、OCCC(Oxide Crystal growth from Cold Crucible)methodと呼ぶ結晶育成技術を開発した。具体的には、隙間の空いたバスケットの中に、酸化ガリウムの原料を満たし、高周波コイルで磁場を発生させ、酸化ガリウム原料を直接加熱する。高周波磁場の出力を上げていけば、酸化ガリウム原料が融解する。この時、原料融液と水冷バスケットの間が焼結に適した温度になることで、周辺部の酸化ガリウムが固まり「るつぼ」の役割を果たすことになる。
スカルメルト法と呼ばれる結晶育成方法を実現するため、C&Aは熱源になる高周波加熱装置を独自に開発した。このような環境で、融液に種結晶を接触させて結晶を成長させれば、大口径の酸化ガリウムインゴットを作製できるという。
今回の実験では、極めて高品質で直径が最大約5cmの酸化ガリウム単結晶を作製した。C&Aは、今回の研究成果を基に、直径2インチの酸化ガリウム基板を生産し、早期に外販する計画である。さらに、結晶成長条件の最適化などを行うことで、結晶欠陥をさらに低減させた基板や、結晶サイズのさらなる大型化を実現していく。
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